【ダ・ヴィンチ2017年10月号】今月のプラチナ本は 『往復書簡 初恋と不倫』

今月のプラチナ本

2017/9/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『往復書簡 初恋と不倫』

●あらすじ●

中学時代に手紙交換をしていた三崎と玉埜。時が流れたある日、ふと、三崎から玉埜に手紙が届く。時を同じくして起こる、多くの死傷者を出した高速バスの横転事故。バスの運転手・桂木は三崎の婚約者。逃走した桂木を二人はそれぞれ探しに行く。「不帰の初恋、海老名SA」
地雷除去のためアフリカに行ったボランティアに立った妻が武装集団に襲われ、戻らぬ人となった。愛する妻を喪い死のうとしていた夫・待田のもとにある日、田中という女性からメールが届く。「あなたの妻は生きていて、アフリカで私の夫と暮らしている」と。それぞれ配偶者に不倫されているらしい二人は、不思議な形で距離を縮めていく。「カラシニコフ不倫海峡」
男女のやりとりのみで構成された二つの恋愛ストーリー。

さかもと・ゆうじ●脚本家。『東京ラブストーリー』、『わたしたちの教科書』(第26回向田邦子賞)、『それでも、生きてゆく』(芸術選奨新人賞)、『最高の離婚』(日本民間放送連盟賞最優秀賞)、『問題のあるレストラン』、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』、『Mother』(第19回橋田賞)、『Woman』(日本民間放送連盟賞最優秀賞)、『モザイクジャパン』、『カルテット』など数々の話題ドラマ作品を手がけている。

『往復書簡 初恋と不倫』書影

坂元裕二
リトルモア 1600円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

手をつないだ一瞬は、永遠に消えない

こんなに引き込まれた本は久しぶりだった。引きずり込まれた、と言いたいほどの勢いで、脇目もふらずに一編目「不帰の初恋、海老名SA」を読み終えた。このスリリングさは、男女ふたりの手紙・メールのやりとりのみで構成された「往復書簡」という形式だけによるものではないだろう。登場人物の三崎明希は書く、「誰かの身の上に起こったことは誰の身の上にも起こるんですよ」と。孤立したり溺死したり殺したり初恋をしたり、すべて誰の身の上にも起こるのか。それがすべて運命ならばがんじがらめのようで息が詰まるし、すべてただの偶然だとしたら、あまりにも宙ぶらりんな気がする。そんな「起きてしまう」ことごとの奔流の中で、出くわして、手をつなぎかけ、それぞれにまた流されていく男女。でも手をつないだ一瞬は永遠に消えないのだ。

関口靖彦 本誌編集長。通常の小説とは形式がちがうので、とっつきにくいと感じるかたもいるでしょうが、最初の3ページだけでも読んでみてください。そのまま引きずり込まれるはずです。

 

人と人が心を通い合わせていく瞬間

雑談のような言葉の応酬に差し込まれる、切実な告白と呼びかけ。「不帰の初恋」の冒頭を読んだときに思い出したのが『ヘヴン』(川上未映子)だった。「君、前に図書室で分厚いホロコーストの本を借りたでしょ。わたしもそのあと借りてます」――三崎が玉埜に送った手紙の一節に、コジマが僕のふで箱に入れた「わたしたちは仲間です」という短い手紙と同じ意思を感じた。坂元さんの作り出すドラマでは過酷な日常を生きている人たちが多いけれど、彼らに心を寄せてしまうのはその言葉にユーモアと明確な意思があるから。二人の感情の揺れが可笑しみにまぶされてストレートに伝わってくる本作は、人と人が心を通い合わせていく瞬間がつぶさに描かれている。人生に災難はつきもの。人は簡単に不幸になる。でも、だからこそたったひとつの言葉に救われるときもあるのだ。

稲子美砂 佐藤正午さんの直木賞受賞を機に過去作品を読み返している。15年以上も前になるが、弊誌でWEB連載をしていただいていたのだ。佐世保まで取材に行きたい気持ちが沸々と……。

 

明希の初恋はどうなったか

タイトルのあたまに“往復書簡”とある。そのタイトルの通り、メールや手紙のやりとりのみで進む文章。ある程度スピードを感じてもよさそうなのに、なんだか時が止まったような、変な感じがする。そしてなぜだか丁寧に読まなければならないような気持ちにもなる。明希が自分の初恋がどうなったのかを語る場面が好きだ。明希とはまたベクトルが違うだろうけど、私も子どもの頃に好きな人ができた時の気持ちを「支えのようにして。お守りのようにして。」いる時があるから。

鎌野静華 藤原一裕著『遺産ゲーム』が9/15発売! 今号で一話まるっと試し読みを掲載。小気味よいリズムと読後のすっきり感をぜひ感じてください!

 

気づいたら両想い

初恋と不倫。対極に思える言葉だが、収録された二編で描かれるのはいずれも強く惹かれ合う男女の姿だ。「というか大変です。待田さん、もう二時ですよ」「もうすぐ春休みですね。さびしいかもしれない」「僕を怒らせてどうしたいんですか」。二人が相手だけに向けた手紙やメールを、私達は覗き見る。二人が互いを癒やし、時に傷つける中で、それぞれが求めてやまないものが明らかになってゆく。「大切なことは、握った手を放さないこと」。では、一度放してしまったとしたら?

川戸崇央 結成7年目を迎えた乃木坂46特集を担当。女性アイドルグループが弊誌の表紙を飾るのは初。きっと好きな楽曲があるはず。ぜひご一読ください!

 

坂元裕二はセリフ言葉の天才だ

著者のファンである。ドラマを拝見する度に、登場人物の発する言葉に胸がざわついていた。今作もそれは健在。「その人の前を通り過ぎるという暴力」「絶望って、ありえたかもしれない希望のことを言う」。また、「普通の人ねって言われるために(中略)積み上げたものを、誰かがちょんと指で突いて崩してしまう」という言葉。人と交わると、不条理な目にも遭う。しかし生きていかねばならない。人生との難しい距離感を言葉にし、エンタメに昇華する坂元裕二は天才だと思う。

村井有紀子 『騙し絵の牙』(10月号にて特集)が発売になりました。塩田武士さん、今作に関わって下さった皆様、そして大泉洋さん。本当にありがとうございました。

 

メールの「間」の不完全さの妙

慣れない相手と交わすメールの距離感、一対一なのに痒いところに手の届かない壁越しの対話。そんなメールならではの「間」が印象的だ。メール(そして手紙)によって切り取られる二人の言葉には、どこか粗熱が取られたような心理の落ち着きがあって、それは時として残酷なすれ違いを生む。会って話せば埋められたかも知れない心の隙間を、タイミング悪く逃してしまう。そんな失敗の瞬間すらログとして刻まれる。不器用で、不条理なのに、そこには奇妙な愛おしさがあった。

高岡遼 手紙でも、電話でも、LINEでもなく、メール。この「間」って独特かも。確かに自分も色々な思い出があるなあ……。テクノロジーが生む風情ですね。

 

諦めなきゃいけないことばかりでも

タイトルから想像される甘やかな読後感を期待すると痛い目にあう。本書に出てくる男女はいずれもけっこうな不条理に見舞われていて、容赦なく孤独。でも、生きていれば誰しも「諦めても諦めても、諦めてもまだ諦めなきゃいけないことは出てくる」んじゃないだろうか。希望あるかぎり失望は不可避。だとしても、言葉を交わしたい「誰か」が一人でもいれば、絶望しないでやっていける。からかい合うように寄り添い合う言葉の応酬は、人生の残酷さに抗う力に満ちている。

西條弓子 大人女子マンガ特集を担当。恋愛に限らず「大事な誰かと関係すること」をめぐる深すぎるインタビューは必読! 本書とセットでどうぞ。

 

 

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