10歳の少女は、規格外の魔力の持ち主!? 思わず応援したくなる、ほんわか最強な魔法ファンタジー!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/11

『十歳の最強魔導師』(天乃聖樹/主婦の友社)

育ってきた環境というのは、良くも悪くも人の心を支配する。その環境として究極的なものの1つに、「奴隷」という立場がある。現代社会でも公にならないところでそういった扱いを受けている子どもたちはいるだろうが、異世界となれば尚更だ。近年、異世界ものが浸透したことで、奴隷や元奴隷がヒロインのライトノベルが増えている。『十歳の最強魔導師』(天乃聖樹/主婦の友社)の主人公・フェリスも、奴隷として家畜以下の扱いを受けてきた女の子だ。

フェリスは物心ついた頃から鉱山奴隷として魔石鉱山でこき使われていた。出来が悪ければ鉱夫たちに殴られ、食事のパンはいつも腐っていたり、カビが生えていたりする。一度もお風呂にも入れず、ボロボロで、1人ぼっちで、人として扱われていなかった。でもフェリスにとってはそれが普通で、彼女はそれ以外の生活を知らずに生きてきた。

だがある日、そんな生活は急に終わりを迎えた。フェリスをこき使っていた鉱夫たちが「旦那」と呼ばれていた謎の人物に殺されたのだ。その場にいたフェリスも殺されかけたが、ギリギリのところで奇跡的に助かり、逃げるようにその場を去った。そうやってたどり着いた街で、男に襲われていた魔術師候補生のアリシア・グーデンベルトを助け、そこから魔法の才能を認められて出世していくことになる。アリシアの魔力に関する数値は、どれも常軌を逸していたのだ。

advertisement

フェリスはまだ十歳で気が弱く、奴隷として生きてきたことで自分に自信もない。自分は出来が悪くて人に迷惑をかけてしまう存在だと思っている。だから、拾ってくれたアリシアに迷惑をかけないよう、必死で頑張っている。その姿は時に小動物、時に子犬といった感じで、見ていると思わずきゅんとして応援したくなってしまう。アリシアにとってフェリスは命の恩人だが、フェリスにとってもアリシアは身寄りのない自分を助けてくれた恩人なのだ。二人は十二歳と十歳と幼いながら、常に相手のことを考え、思いやっている。そこには打算も下心もない。

フェリスはアリシアとともに学園に通うことになるが、そこでも次々とチート性を発揮していく。しかしそれでも驕ることなく、頑張って頑張って、さらなる成長を遂げていく。近年のいわゆるラノベの主人公と言われる類の男子が女子からの好意に疎いように、彼女は自分のすごさに疎いのだ。その、年相応の気弱さ、真っ直ぐな心、そしてチート級の才能という絶妙なバランスが、彼女を応援したい、という気持ちを掻き立てる。

そして仲間たちに支えられ、囲まれて学園生活を送る中で、少しずつではあるが、奴隷的思考から普通の1人の女の子へと脱却していく。2巻では、学園で仲のいい友人、ジャネット・ラインツリッヒが誘拐されるなどの危機的状況も起こるが、フェリスはアリシアや仲間たちとともに立ち向かっていく。

この『十歳の最強魔導師』は、まだまだ続いていく。強くなったフェリスが今後どう成長していくのか、アリシアやジャネットを襲った男たちの正体は一体何なのか、気になることはたくさんある。ぜひとも本書を読んで、フェリスの幸せを、奮闘を、見守ってほしい。

文=月乃雫