「生理不順があるくらいで検査に来てくれて良かった」――子宮頸がんと突然通告され、子宮を全摘出。33歳漫画家による、女子必読闘病エッセイ『さよならしきゅう』

マンガ

更新日:2017/9/26

『さよならしきゅう』(岡田有希/講談社)

 健康診断も、子宮頸がん検診も、毎年受けなくちゃいけないことくらいはわかっている。だけど日々の雑務に追われて、あっというまに日が過ぎて。一度大丈夫だったからそのまま数年放置、なんて人は少なくないんじゃないだろうか。だけど、たった1、2年で取り返しがつかないほど進行することだってあるのだ。33歳のマンガ家・岡田有希もその一人。『さよならしきゅう』(講談社)は、一児の母でもある彼女の闘病生活を率直に描いた作品だ。

 国立がん研究センターによれば、子宮頸がんは「子宮の入り口付近に発生することが多いので、普通の婦人科の診察で観察や検査がしやすいため、発見されやすい」という。また、「早期に発見すれば比較的治療しやすく予後のよいがんですが、進行すると治療が難しいことから、早期発見が極めて重要」とのこと。岡田さんの場合、ただの生理不順にしては様子のおかしい自分の身体に疑問を抱き、いちはやく病院を受診したことで、最悪の事態は避けられたのかもしれない。子宮全摘出手術をすぐに受けねばならないレベルの悪性腫瘍。呆然とする彼女に医師は言う。


「生理不順があるくらいで検査に来てくれて良かった。若い人はなかなか来ない! そして手遅れになる!」

 結果として卵巣を残すこともかなわなかった彼女に、それでも「良かった」とくりかえす医師の言葉は、患者が直面する目の前の不安とおそれを直接的にとりのぞくものではないが、それでも本当に「良かった」のだということが読み進めていくうちにわかる。あたりまえに続くと思っていた、娘との生活。夫を支え、忙しいながらも幸せな日々。そのすべてが失われ、無になるかもしれない恐怖。そして術後も続く放射線治療という苦しみ。ひとつひとつは決して「良い」ものではないが、それでも比較的早期に見つかったおかげで彼女は生き続けることができたのだから。

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 自分以上に青ざめ、心配しながら支え続けてくれる母。週刊連載を抱えながら、妻の病気を受け止め、慣れない家事と子育てに奮闘する夫。それがわかっているから、幸せいっぱいの新婚弟夫婦にも事情を告げず、病院で孤独におそれ続ける著者本人。もちろん友達に打ち明けたり、病室の仲間が励ましてくれたり、支えてくれる人がいるから前に進むことができるのだが、それでも、芽生える恐怖と痛みに向き合えるのは自分だけ。

 揺れ続ける感情と、つきつけられる現実に、安易に泣いてはいけない気がして、読みながらこみあげるものをこらえていたが、一か所だけ我慢しきれなかった場面がある。離ればなれとなってしまった2歳の娘と再会するシーンだ。大泣きする、はしゃいで大騒ぎする、それが当たり前だった幼い娘がとったある行動。その心中いかばかりだったかと思うと、この文章を書きながらまた泣いてしまう。

 命にかかわる何かが降りかかってきたとき、その影響を受けるのは自分ばかりではない。自分を大事にするということは、大事な人を守ることでもある。術後5年、幸せに暮らし続けている著者の健康に安堵するとともに、本作が早期発見の一助になってくれればと願うばかりである。

文=立花もも

(C)岡田有希/講談社