小泉今日子さんが「何度も涙ぐんだ」『なでし子物語』とは? いじめ、母親の育児放棄…ワケありの少年少女が孤独を乗り越え強く生きる!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/11

『なでし子物語』(伊吹有喜/ポプラ社)

さみしさは、怖れや不安に起因する。自分はひとりぼっちなのだと怯える心に、先の見えない未来への不安が巣食ったとき、その寄る辺なさに震えるのだ。けれどどんなに理不尽で、耐えがたい現実があっても、自分の足で前に進んでいくしかない。どうしてこんな目にと考えるのではなく、どうしたら先へ進めるのかを思うのだ――。『なでし子物語』(伊吹有喜/ポプラ社)は、さみしさに震える子供たちを通じて、生きる強さを教えてくれる物語だ。

父を亡くし、母からはネグレクトの末に捨てられた小学4年の少女・耀子。父の故郷で、祖父にひきとられた彼女は、その土地で栄える遠藤家の長屋で暮らすこととなる。そこで出会うのが、本家の次男・立海。長男亡きあと、老齢だった当主が19歳の娘に産ませた小学1年の少年である。立海もまた母に捨てられ、窮屈な本家のなかで古いしきたりに縛られていた。迷信から女装をさせられ、ストレスで嘔吐をくりかえす立海。教育と躾を受けずに育ったために、同級生たちからときに暴力を受ける耀子。2人の孤独は、屋敷のなかで共鳴し、しだいに心を寄せ合っていく。

親はなくても子は育つ。だが、まっさらな子供たちを導く大人は必要だ。本作でその役割を負うのは、立海の家庭教師である青井だ。登校拒否になった耀子に、青井はふたつの言葉を教える。

advertisement

自立。自分の足で立ち、うつむかずにかおを上げて生きること。
自律。みずからを律し、うつくしく生き、あたらしい自分をつくること。

それは、生きているだけで自分は迷惑な存在なのだと、現実に抗えばもっと悪いことが起きるだけだとあきらめていた耀子を解き放つ魔法の言葉だった。“今”は、苦しいかもしれない。“今の自分”に価値はないかもしれない。だけど未来は変えていける。自分を好きになることができるという希望を、はじめて与えられたのだ。

そんな耀子に共鳴しながら、立海もまた強くなっていく。自分の考えなしの行動で耀子を傷つけるかもしれないこと、だけど大好きな耀子のそばにいることで味方になれること、誰かのために自分が存在できるということが、自分自身も救うということを知るのである。

闘う2人の姿は、周囲の大人たちをも動かしていく。後継ぎだった夫(立海の異母兄)を亡くし、東京で暮らす息子とも疎遠のまま、過去に心を置き去りにしていた照子の時間は、大人たちの都合でふりまわされ、傷つく2人を守ろうとする気持ちが芽生えることで、少しずつ動き出す。照子だけではない。読者もまた、自分のなかに巣食っているさみしさを目の当たりにしながら、2人と一緒に再生していく。2人の未来に、少しでも幸多からんことを祈りながら。

10月に発売される『地の星 なでし子物語』では大人になった耀子たちの姿が描かれる。新刊を先に手にとっても十分楽しめるのだが、彼女たちがどんな思いで生きてきたのかを知ることができる本作を、ぜひとも、まずは手にとっていただきたい。

文=立花もも