アイドル、宝塚、ホスト…何かひとつのものに大金をつぎこむ女性たち――「浪費は必ず何かに繋がっていく」

エンタメ

2017/9/12

『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話』(小学館)

 世の中には、刹那の快楽に大金をつぎこみ、何の見返りも残らない人々がいる。一般的にそんな行為は「浪費」と呼ばれ嘲笑されがちだ。しかし、浪費の真っ只中にいる当人が不幸とは限らない。むしろ、心からの幸せを抱いてお金を払っているケースも珍しくないのである。

『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話』(小学館)は若きオタク女子たちの「浪費」にまつわるエピソードをつめこんだ一冊である。世間から後ろ指を指され、「無駄」と批判されても浪費をやめられない彼女たちの本音に呆れてしまう読者は多いだろう。しかし、彼女たちがびっくりするくらい「楽しそう」なのは紛れもない事実である。仕事でも家庭でもない、「浪費」という生き甲斐について読者は考えさせられるだろう。

 著者「劇団雌猫」はアラサー女子4人組によるサークル。2016年末に発行した同人誌「悪友」が反響を呼び、一般向けに内容をボリュームアップしたのが本書である。

 興味のない人間からすると全く価値のない物に熱中しているのが本書での「浪費」の定義だといえる。たとえば、アプリゲーム「あんさんぶるスターズ!」に浪費するウォンバット(仮名)さん。彼女は「あんスタ」にハマり同人誌を発行しているオタクだが、驚きなのは毎月の浪費額である。

アプリ課金が3万~5万、グッズ購入が1万~2万、同人仲間との交際費が1万~です。イベントがある月はこれに印刷費やイベント参加費がプラスで7万円くらい

 つまり、15万円以上を「あんスタ」に浪費している月もあるということだ。同人女にとっては、課金して手に入れた絵を同人ネタにしてこそ意味がある。ウォンバットさんは生活費を削りながら、「えっちな絵」に収入の大半を注いでいる。

 ブラウンポメラニアン(仮名)さんはアイドルグループ、乃木坂46の川村真洋さんのオタク。女性が女性アイドルにハマるのは珍しいように思えるが、彼女は川村さんに恋しているわけではない。もっとも近い感覚は「産みたい」。そう、無償の母性愛を川村さんに向け、せっせと握手権付きCDを買い漁るのである。

 そのほか、声優やビジュアル系バンド、宝塚歌劇団、ホストなどアラサー女子たちの浪費エピソードは多岐にわたる。1848人の浪費女を対象にしたアンケートでは、54.2パーセントが実家暮らし、20.4パーセントが貯金なし、それでいて44.6パーセントが「一生このまま愛と金を注ぐつもり」と回答している。彼女たちにとって浪費は執念なのか中毒なのか、もはや見分けがつかない…。

 しかし、本書に寄稿しているオタク女子のほとんどが、浪費に対してネガティブな感覚を持っていない。フタコブラクダ(仮名)さんはお笑いコンビ「ロザン」の追っかけを続け、千葉から大阪の劇場に通い続けた。そして、高学歴なのにお笑い芸人を目指した2人を見守るうち、嫌っていた当時の仕事を辞めた。するとプライベートも充実し、恋人とも結婚できたという。彼女はこう記す。

誰かが何かを好きなことには理由があって、きっとその誰かにとっては無駄ではない。意味のあること。その浪費は必ず何かに繋がっていく。

 また、第3章に収録された座談会を読んでいると、「浪費」するのはそれほどコンテンツに魅力がある証だとオタク女子たちは力強く声を合わせる。そこに微塵の迷いもない。ホストにハマっているネザーランドドワーフ(仮名)さんは、「浪費」によって「承認欲求が満たされる」と書いている。劇団雌猫のメンバーも「浪費」で経済を回していると感じ、元気が出るという。真面目に貯金したり、自分磨きに投資したりしても報われるかどうか分からない時代に、快楽の赴くまま「浪費」に生きる彼女たちは、社会の束縛から解放されているのかもしれない。そして、今日もオタク女子たちはクレジットカードが止まるのを恐れつつ、それぞれの「浪費」に明け暮れるのである。

文=石塚就一