IWGPシリーズ第13弾解禁! 石田衣良著『裏切りのホワイトカード』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/11

『裏切りのホワイトカード』(石田衣良/文藝春秋)

ある海外の出版社が2016年を代表する言葉として「ポスト・トゥルース」という単語を選んだそうだ。直訳は「脱・真実」。たとえウソであっても個人の感情に訴えかけるものが影響力を持つ状況を表す言葉だ。「国境に壁を作って、異教徒は国外に放り出し、外国製品に高い関税をかける」と宣言して当選した大統領とその国民にぴったりな言葉といえる。いや、日本も似たようなものだろう。SNSでフェイクニュースがたびたび流れたり、日本が抱える数々の大問題を無視してマスコミはどうでもいいことばかり報道したり。真実は必要ない。必要なのは、大衆という「数」をどれだけ引きつけられるかだ。真実に興味をなくす社会にどれだけの価値があるだろうか。

『裏切りのホワイトカード』(石田衣良/文藝春秋)は、実家の果物屋の手伝いをする真島誠(通称マコト)が、ギャング集団「Gボーイズ」と協力しながらトラブルや事件を解決していく小説だ。「池袋ウエストゲートパーク(IWGP)」シリーズ13作目となる本作品。今回もミステリーに織り交ぜられた社会風刺が読み手の私たちに警鐘を鳴らしている。

■滝野川炎上ドライバー

河本順治は宅配ドライバーをしている。マコトの住む池袋に配属されて1年ほどが経ち、その礼儀正しさとバカ真面目さが有名となるほど、地域のみんなから受け入れられていた。そんな順治には子どもがいた。小学3年生の透だ。しかし順治は離婚をしていたので、息子の透と会えるのは週1回だけだった。マコトとマコトの母親は、果物屋を訪れるこの2人に手料理を作ってあげたり、お土産にフルーツを持たせたり、なんだかんだ世話を焼いていた。4人の微笑ましい関係が思い浮かぶ。しかし、その関係にヒビが入った。ある日を境に、透の笑顔が少なくなる。順治の元妻、瑞恵に新しい彼氏ができたのだった。

advertisement

あるとき、透が1人で果物屋に来るときがあった。明らかに様子がおかしい。注意深く接していたマコトは透の腕に青いあざを発見する。透は瑞恵の彼氏から虐待を受けていたのだった。これを知った順治は居ても立ってもいられず、無策にも、瑞恵と新しい彼氏に会うため家に乗りこんでしまう。もちろん失敗に終わった順治だったが、事態はこれだけでは済まなかった。翌々日、順治の勤め先に「お前は父親失格だ!」「仕事辞めろ!」という抗議が殺到する。瑞恵の彼氏に「順治が別居中の子どもを虐待している」というフェイクニュースを流されてしまったのだった。

もし悪意を持つ他人によって自分に関するフェイクニュースを流されたとき、私たちはどのように対処すればいいだろうか。インターネットが発達を続ける現在、一度炎上してしまったものを火消しするのは不可能に近い。しかし、火は消せなくても助けてくれる人がいる。辛いときそばにいてくれる人がいるはずだ。そして、そんな人が自分の周りにどれだけいるかは、毎日の行いにかかっている。ネット社会ではない、人と人が接するリアルな世界では、いまだ人柄という真実がもっとも大切であることをバカ真面目な順治が証明している。シリーズ13作目の今回も読み手の私たちの心を動かしてくれる。

文=いのうえゆきひろ