一度目にしたものは忘れない! 感情を失くした“アイス・クイーン”が警視庁の暗部を暴く

文芸・カルチャー

2017/9/18

『警視庁監察官Q(朝日文庫)』(鈴峯紅也/朝日新聞出版)

 幼い頃の事故により、“喜”と“悲”の感情が欠落した小田垣観月。その代償として得たのは、あらゆる情報を瞬時に脳裏に焼き付ける“超記憶”の能力だった――。

 現職総理大臣の息子にして、エリート公安捜査官の小日向純也を主人公とした「警視庁公安J」シリーズ。祖父から受け継がれた正伝一刀流を極め、〈自得〉の境地に達した東堂絆を主役に据えた「警視庁組対特捜K」シリーズ。その生みの親である鈴峯紅也氏が、またまたやってくれた。「J」「K」に続いて切られたカードは、クイーンこと「Q」。『警視庁監察官Q(朝日文庫)』(鈴峯紅也/朝日新聞出版)では、警察の内部調査を行う女性監察官・小田垣観月の活躍が描き出される。

 とにかく、観月のキャラクターがいい。幼少期のある出来事を機に感情の一部が失われ、無表情で泰然とした姿から、ついた異名は“アイス・クイーン”。とはいえ凛としたクールビューティではなく、蛍原カットの童顔女子。人一倍頭を使うため、“補給”と称してパクパクと甘味を口に放り込む姿はかわいらしくもある。「妖怪の茶会」「魔女の寄合」と称される警視庁キャリア女子の会、東大仲間の女子会では、甘味をつまみに酒をグビグビ。なんとも愛すべきキャラではないか。

 そんな彼女が任されたのが、証拠品や押収品の巨大保管庫〈ブルー・ボックス〉。運用が始まったと同時に、本庁も所轄も手あたり次第に証拠品を搬入したため、現場は混乱状態。そこに乗じてか、2年前のブラックチェイン事件に絡んだプラスチック爆弾C4が消えてしまった。その行方を追ううち、観月は横流しされた押収品を売買する〈トレーダー〉の存在に行き着く。さらに、非合法ドラッグ〈ティアドロップ〉の横流しも疑われ、観月率いる監察チームは警察の闇に斬り込んでいく。

 ここで真価を発揮するのが、観月の”超記憶”だ。150メートル四方、3階建ての〈ブルー・ボックス〉にズラリと並ぶ棚、そこに収められた段ボールを写真のように記憶し、数ミリの歪み、以前見た時とのわずかな差異を看破。気になる段ボールを鑑識に回し、検出された指紋から疑わしい人物に当たりをつけていく。荒事になれば、故郷で身につけた関口流古柔術で悪漢を瞬殺。「J」「K」と肩を並べる超人ぶりに、スッと胸がすく。

 なお、「J」「K」シリーズを未読でも楽しめるが、ブラックチェイン事件やティアドロップ事件が扱われ、「J」こと小日向純也、「K」こと東堂絆も登場するため、両シリーズと併読したほうがさらに楽しめる。「『K』に登場したあの人が、まさかあんなことになるとは……」という、意外な展開も待ち受ける。

 甘いもの好きにとっては、観月がおやつに食べる和菓子も見逃せない。舟和本店のあんこ玉、神馬屋いま坂のどら焼き、埼玉屋小梅の桜餅、青野本店の赤坂もち、予約しないと手に入らない銀座かずやの煉り菓子。秋の夜長、お気に入りの和菓子と濃いめに淹れた緑茶とともに味わいたい1冊だ。

文=野本由起