パニック状態をいかにマネージメントするか。紛争地帯などで修羅場を乗り越えた元国連職員が語る理想的なリーダーの条件とは?

ビジネス

公開日:2017/9/19

『国連で学んだ 修羅場のリーダーシップ』(忍足謙朗/文藝春秋)

 毎年2月上旬に発表される、明治安田生命の「理想の上司ランキング」。今年の女性編は日本テレビの水卜麻美アナウンサー、男性編ではお笑いコンビ・ウッチャンナンチャンの内村光良がトップだった。筆者なら、理想の男性上司としてイチオシしたいのは断然、30年以上にわたり国連に勤務し、人道支援、開発支援の現場で活躍した忍足謙朗(おしだりけんろう)氏である。

 その活躍ぶりは以前、『情熱大陸』(TBS)や『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)などでも紹介されたが、まだ忍足氏について知らないという方、そしてテレビは観たけどという方にも改めてオススメしたいのが、忍足氏初の著書『国連で学んだ 修羅場のリーダーシップ』(文藝春秋)だ。

 本書は、UNDP(国連開発計画)に始まりWFP(国連世界食糧計画)で幕を閉じる、著者の国連職員人生を詳細に綴ったスリリングな回顧録だ。もちろんタイトル通り、修羅場で必要となるスキルやリーダーシップ、チーム作りなどについても記されているし、将来、国連や国際舞台で活躍したいという人が必携スキルを学べる実用書でもある。

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 なぜ修羅場かというと、著者が25年費やしたWFPには、自然災害の他、紛争・戦争地域の難民たちに食糧を提供するミッションが多いからである。著者はボスニア紛争、コソボ紛争、スーダン内戦と南北スーダン国境紛争などでリーダーシップを発揮すべき要職者として活躍し、多くの難民たちを救済した。そんな本書には、平時にも使えるリーダーシップ・ノウハウが数多くちりばめられている。

 例えば紛争地域での支援では、スタッフは心身ともに疲弊する。そうした際に著者は「相手が嫌がっても休みを取らせる」ことを徹底する。そして紛争地を抜け出して釣りやピクニックをするなど、心身のリフレッシュを部下と共に行う。こうした息抜きが部下とのコミュニケーションの場ともなり団結力を高め、結果としてミッションを成功に導く。むやみに過剰勤務を強いる管理職者などには、ぜひとも熟読をお願いしたいくだりだ。

 次に著者の好きな言葉でもある、緊急時における著者の行動指針を紹介しよう。それは「ことを正しくやるより、正しいことをやれ」だ。この言葉の意味を理解してもらうために、2011年の東日本大震災の際のエピソードを紹介しよう。

 著者がWFPとして震災の人道支援に参加した際、NGOからの緊急な要望を携え、活動許可を得るため外務省に出向く。対応した担当者が「明日の会議で決めます」と返事をするや、すぐさま著者は「緊急です、今すぐ決断を」と促す。結果、その場で承諾を得たことで著者はスピーディに支援を実行した。

 このエピソードで外務省職員は、会議にかけることで「ことを正しく」しようとした。しかし緊急事態であり時間に余裕はない。そんなときは、後で上司から叱責されようともその場で即決することが「正しいこと」だというわけである。

 本書が伝える著者の魅力は、自ら進んで危険地帯にも飛び込む勇気、緊急時にはルール無視もいとわず決断・実行する大胆さ、そして、難民だけでなく共に働く同志(アルバイト的なスタッフも含む)たちへの愛に満ちた思いやりだ。人を惹きつける父性と母性が見事に調和して内在する著者は、おそらく多くの人にとって理想の上司だろう。

 リーダーシップを学びたい人は、ぜひ本書から、著者のそんな人間力をくみ取っていただきたい。最後に著者が本書を書いた動機として記した言葉を引用・ 紹介しよう。

(世界で起こっている飢餓や不平等に対して本書を通して)知ってくれるだけでもいい。「どこか遠い国で起きている出来事で、私たちには関係ない」と思わずに。(中略)。
地球は小さい星だ。
その地球の同居人として、世界レベルの「思いやり」を持つことを考えてほしい。グローバルな感覚というなら、それが一番大切なことのように思う。

文=町田光