報道できない「不都合な真実」…内部文書と書かれた資料を手渡して“マスコミを洗脳する”官僚の手口を暴く

政治

公開日:2017/9/20

『大手新聞・テレビが報道できない「官僚」の真実』(高橋洋一/SBクリエイティブ)

 国政に大きく関わる官僚。職種としては一般認知されているが、実際にどんな仕事をしているのか知らない人の方が大多数だ。筆者もまったく知らない。ただ、国民を無視して、自分たちの利益にしかならないことや悪企みをやっているイメージはある。それは果たして本当なのか、『大手新聞・テレビが報道できない「官僚」の真実』(高橋洋一/SBクリエイティブ)より、少しだけ覗いてみよう。

■法律は官僚が作っている

 日本は法治国家。つまり国政とは法律。そして国を動かしているのは政治家。したがって筆者は、法律は政治家が作っているものだと思っていた。しかし旧大蔵省の元官僚で著者の高橋洋一氏によると、法律の約8割は官僚が作っているそうだ。そもそも法律を作ることは非常に高度な作業。過去の法律と矛盾してはいけないし、条文として言葉遣いが適切かどうかも問われる。銀行や証券会社に対する法律を作る場合、金融機関の業務や金融商品を熟知した上で、どういう規制をすべきなのか考える必要がある。生半可な知識では不可能なのだ。

 官僚は入省した直後から法律に触れる。上司に頼まれたコピーが新しい法律の条文だったという場面もある。上司から手取り足取り教えてもらうわけではないが、上司をサポートすることで法律の作り方を自然と学ぶ。財務省ならば、課長補佐になる30代半ばくらいから新しい法律を作る仕事を担当するそうだ。

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■「に」の一文字を付け加え、天下り先を確保

 だとするならば、官僚が自分に都合の良い法律を作ってしまうのは簡単に想像できる。だからこそ、政治家が官僚の作った法案をチェックし、場合によっては「作り直せ!」と修正させてしまえばいい。ところが、政治家より官僚の方が一枚上手だそうだ。本書より実例を紹介したい。

 2005年、小泉政権時代のとき、高橋氏は内閣府主導の政策金融改革を担当することになった。政策金融機関は民間の金融機関のへの民業を圧迫していると同時に官僚の天下り先でもあったのだ。そこで高橋氏は改革のため法案に「政策金融機関の完全民営化」と書いた。ところが、天下り先が減るということで財務省は激怒。その結果、最終段階で上がってきた法案には「政策金融機関を完全に民営化する」と書かれていた。「に」が付け加えられていたのだ。一般人からすると、財務省も大したことないなと思ってしまうが、これは大きな違いである。「完全民営化」だと、「民間が所有し、民間が運営する」という意味でとらえることができる。しかし「完全に民営化」だと、「完全を期して民営化する」という意味に解釈でき、(ややこしい話はとっぱらうが)結局、財務省は天下り先を確保することができるのだ。当然、法案に「に」が入っているかどうかなど、政治家が気にするわけがない。幸い、閣僚が法案に署名する前に高橋氏が気づいたので、修正して事なきを得たそうだ。本書では他にもいくつか事例が紹介されており、なかには首相の答弁書も都合の良いように変えようとしたケースもある。官僚のしたたかさは並ではない。

■マスコミを洗脳する方法

 警察庁に記者クラブが存在するように、財務省にも記者クラブが存在する。高橋氏はマスコミ対策を担当した経験もあり、この記者クラブに出入りしていた。ニュースがあるときはマスコミ用にまとめた資料を持っていき、必要に応じて記者たちに資料の解説をしていた。すると、その翌日の新聞やニュースでは、資料を鵜呑みにした報道がされていたそうだ。政府の予算案の発表という大きなニュースソースであっても、記者たちは予算案に目を通すこともなく、用意されたマスコミ用の資料しか読まない。鋭い指摘が飛んでくることは一度もなかったそうだ。マスコミ“対策”といいつつ、“対策”に苦労したことがなかったという。

 財務省がある政策キャンペーンを行ったとき、露骨な情報統制がしかれたことがあった。そのとき、担当部局の課長クラス以上に対して、新聞の論説委員クラスやテレビ局のコメンテーターに根回しさせて、どのような記事を書かせたりコメントをさせたりするか、お互いに競わせたことがあったそうだ。その結果、新聞の論調は見事すべて同じになったという。その紙面を見比べた幹部は「○○新聞が一番よく書けている」と笑っていたそうだ。

 高橋氏によると、官僚をはじめとする役人がマスコミを洗脳するのは簡単だという。まず、役人から相手の職場へ出向く。マスコミはそれだけで恐縮する。そして「内部文書」などと書かれた資料を手渡す。これが効くのだ。マスコミは自分たちでデータを調べて分析することができないため、きちんとまとめられた資料に飛びついてくれる。もちろんこの資料に肝心なことは書いていない。資料の最後には携帯電話の番号やメールアドレスを書く。それを見て「優力な取材先が増えた」とマスコミは喜ぶ。これで洗脳は完了だ。

 ワイドショーのコメンテーターが「実態解明が急がれる」という言葉を口にすることがある。森友学園問題や加計学園問題のときにも飛び出したフレーズだ。残念ながらマスコミにその能力はない。「内部文書」が出てくるのを待ちわびていただけなのだ。「実態解明」を急ぐべきは森友学園問題だっただろうか。もっと他に解明すべきところがあったのではないか。

文=いのうえゆきひろ