不妊に悩む全ての人へ――『それでも、産みたい 40歳目前、体外受精を選びました』

出産・子育て

公開日:2017/9/21

『それでも、産みたい 40歳目前、体外受精を選びました』(小林裕美子/新潮社)

 子どもがほしいと思っても、「自然に」できない場合もある。『それでも、産みたい 40歳目前、体外受精を選びました』(小林裕美子/新潮社)の著者も、自然妊娠が難しく、体外受精を選び、妊娠・出産を経た。その時の年齢は、40歳を目前としていた。

 著者の小林裕美子さんは、漫画家兼イラストレーター。旦那様は会社員だというが、積極的に子どもがほしいと考えていた夫婦ではなく、27歳の時に結婚してからあっという間に3、4年経ち、30代に突入。友人や親戚に子どもが産まれはじめ、また、「最近は何をしてもあまり楽しくない」「多分もう、自分を楽しませることに飽きてきたんだと思う」と感じはじめる。

 子どもという「全てが初めての人間と感動を分かち合うよろこび」を得たい。また、稼いだお金を「自分のためではなく、誰かのために使ってみたい」と思うようになり、子どもがほしいという気持ちが募るように。

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 しかし、小林さんの場合、卵管の先がうまく卵子をキャッチできず、自然妊娠はできなかった。そこで、不妊治療を……という話になったのだが、その精神的・金銭的な負荷や、当時、あまり乗り気ではなかった旦那様のこともあり、踏み込めず。妊娠を断念する。数年が経ち、40代目前となってから、やっぱり子どもがほしいという想いが強まり、一大決心。体外受精に踏み切る。

 本来なら産まれない命を人工的に生み出すのはエゴなのではないか、身体的な負担や金銭面での葛藤を抱えつつ、小林さんは無事に妊娠にいたる。しかしその後も、お腹の赤ちゃんがなんらかの事情で小さいことが分かり、原因を調べるための羊水検査をして、もし障害のある子どもだったら中絶するか否かといった悩みも生じる。本当に、「子どもを産む」のに、多くの困難が待ち受けていた。だが、様々な出来事を乗り越え、小林さんは無事に元気な男の子を出産する。

 本書は、「子どもがほしい?」と悩むところから「ほしい!」と気持ちが変化し、体外受精に踏み切り、妊娠・出産を終えるまでの出来事が、「感情」や「想い」といった心理面を中心に書かれていた。もちろん、体外受精の過程やお金のことも書かれているのだが、そういった客観的な情報がほしいのなら、今はネットでも事足りる時代だ。そうではなく、本書は一人の女性の想いや、夫婦の「体験談」が描かれている。言わば、「体外受精をした夫婦の一例」であり、完全な「主観」なのだが、だからこそ、専門誌やネットとは違う、貴重な情報が詰まっていたと思う。

「その時、どう思ったか」「どのように悩んで、結論を出したか」「施術は痛かったか」など、そういった一人の女性の「感想」や「感情」は、熱のない「情報」よりも、これから出産、また体外受精に踏み切ろうとしている夫婦を励まし、勇気づけることも多くあるだろう。

 子どもを持つか。不妊治療をするか。体外受精をするか。羊水検査をするか。中絶するか。……時として、「子どもを産む」ことには、様々な苦難がある。悩みに悩んだ著者だからこそ描けたことが、本書には詰まっている。

文=雨野裾