珈琲と音楽、じんわり沁みる優しい言葉。ベストセラーになったあの感動小説は、コミックになってもやっぱり泣けた!

マンガ

更新日:2017/9/20

『虹の岬の喫茶店』(森沢明夫:原作、天沼琴未:作画/潮出版社)

 どうしようもなく心が疲れた時、誰かの何気ない一言に救われることがある。友達や肉親ほど近くないからこそ、かえって耳にスッと入ってくる言葉。適度な距離感で心に寄り添う、毛布のようにあたたかいささやき。そんな一言を、おいしい珈琲や素敵な音楽とともに差し出してもらえたら……。

 『虹の岬の喫茶店』は、寂しさや痛みを抱える心にじんわり染み入る感動ストーリー。森沢明夫さんの原作はベストセラーになり、『ふしぎな岬の物語』として映画化もされている。そんなヒット作を、天沼琴未さんが全3巻でコミック化。全6章のうち1、2章を収めた1巻(天沼琴未:作画/潮出版社)が、本日発売された。

 舞台となるのは、房総半島の岬に立つ小さな喫茶店「岬カフェ」。初老の店主・柏木悦子さんがひとりで切り盛りするこの店には、訪れる人をほっとくつろがせる柔らかな空気が流れている。珈琲と音楽、そして悦子さんの優しい笑顔。心に傷を負った人たちは、この空間に身を浸し、悦子さんとの語らうことで希望を取り戻していく。

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 1章「アメイジング・グレイス」で描かれるのは、妻を病気で亡くしたばかりの克彦と幼い娘・希美の物語。まだ喪失から立ち直れずにいた克彦は、ある日希美の提案で行き先を決めないままドライブへ。虹を追いかけて車を走らせるふたりは、やがて房総半島の岬に立つ喫茶店「岬カフェ」へとたどりつく。

 2章「ガールズ・オン・ザ・ビーチ」の主役は、就職活動をしながらも作家になる夢を諦めきれない大学生・今泉健。ツーリングの途中、偶然「岬カフェ」に立ち寄った彼は、そこで運命の出逢いを果たす。

 驚かされるのは、天沼さんの“マンガ力”の高さだ。小説をそのままマンガに仕立て直すだけでなく、時系列を入れ替えてわかりやすく翻案。悲しみや痛み、喜びは過剰に言葉で説明せず、固く握りしめた指先、移ろいゆく表情だけでドラマティックに表現している。1章ではマンガオリジナルのシーンがラストに付け加えられているが、原作のテーマを変えることなく、むしろさらに感動を深め、希望を色濃くしている。原作を読んでいるにもかかわらず、新鮮な感動に心を揺さぶられ、涙がこぼれてしまう。

 聞けば天沼さんは、森沢さんの小説をすべて読破するほどの大ファンだとか。作品へのあふれんばかりの愛情と持ち前の“マンガ力”が結晶し、この感動作が誕生したようだ。頑張るのに疲れた時、モヤモヤする気持ちを抱えた時は、このマンガを開いてほしい。うつむきがちの人も、少し視線が前を向くはずだ。「 潮WEB 」では、1章と最新エピソードを公開中なので、試し読みもできる。ただし、涙もろい人は電車の中で読まないようご注意を。

文=野本由起