娘の幸せを壊し続ける毒母との恐ろしいエピソード…『毒母育ちの私が家族のしがらみを棄てるまで』

出産・子育て

更新日:2020/9/1

>『毒母育ちの私が家族のしがらみを棄てるまで』(越田順子/彩図社)

 子どもは親を選べない。家族で暮らすだけのお金があり、ある程度以上の人格を持つ親許に生まれることができれば、まともな人生をスタートさせることができるだろう。しかし生活するだけのお金がない親許やアダルトチルドレンな親許に生まれてしまった子どもは、それだけで人生がハードモードになる。その典型例が『毒母育ちの私が家族のしがらみを棄てるまで』(越田順子/彩図社)だろう。

 著者の越田順子さんの母親は、いわゆる毒親だった。毒母に育てられた越田さんは、まともな幼少期を過ごすことができず、自分に自信を持てない不幸な人生を歩み始めてしまう。正直なところ、本書を読むことは非常に辛かった。救いようのない話ばかりだった。

■お前を産むことを周りはみんな反対したの

 毒母に育てられた越田さんは、幼少期の頃から事あるごとに怒られ、否定され、制限され、自分に自信のない子どもに育ってしまう。本書にはそのひどいエピソードが大量に書かれている。どれを書けばいいか迷うほどだ。その中でも特にひどかったのが、生まれた頃の話をする場面。毒母が越田さんに言う。

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「お前を産むことを周りはみんな反対したの。堕ろせって言われたけど、前の年に子どもを堕ろしていたからもう堕ろすのはいやでね。お父さんが産め、って言ってくれたからお前は産むことができたの」

 いったいどんな顔で毒母は越田さんにこの話をしたのか。何を考え、どう思ってほしかったのか。これを聞いた越田さんは「生まれてきたことを認めてもらわなくてはいけない」「私は生まれてきてはいけなかった」と感じたそうだ。そして「誰からも歓迎されていないのに私を生んだ母親に感謝」「申し訳なさでいっぱい」という気持ちにもなったという。本書を読む限り、このあたりから越田さんの思考回路はおかしくなる。人間は自分に適度な自信がないと正しい判断能力や思考能力が持てない。この毒母の教育のせいで、越田さんは不幸になるべくしてなる人生を歩み始める。

 このあとも毒母と越田さんの異常な親子関係が続く。高校時代のことをいくつか並べよう。越田さんが父親のために作ったお菓子。父親は喜んだのに対して毒母は一口食べて「もう作るのやめたら?お菓子なんて買えばいい」と告げた。修学旅行でお土産を買って帰ると「お金がもったいない」と叱られる。越田さんの尊敬する先生が大学の推薦先を出してくれたが、毒母は場所が東京ということであっさりNG。なにより異常なのは、このあり得ない親子関係について越田さんは当たり前だと思っていたことだ。子どもにとって親の教育とは自分の常識を決定づけるもの。他人からは異常でも、その世界しか知らない子どもは日常と受け入れてしまう。まるで洗脳だ。おぞましい。

■崩壊する結婚生活

 それでも越田さんは素敵な男性と出会い、そして結婚することになる。まだ大学生で、就職間近の時だった。プロポーズされたこの時期が人生で一番幸せだったと振り返っている。しかしその幸せも長く続かない。まず、越田さんは夫とセックスができなかった。結婚するまで清い交際を続けた。夫婦になってから初体験が待っているはずだった。しかし結局、夫と離婚するまで一度もそういったことはなかった。その理由について越田さんは「怖かった」と本書で記しているが、筆者が思うに、異常な自己評価の低さ、そして性教育をしてこなかった毒母、さらに初体験をあおりからかう越田さんの姉の言動などが重なり、越田さんはセックスではなく、何か別のものに怯えてしまったのではないだろうか。

 そして最大のミスは夫を養子として迎え入れ、夫婦が毒母と一緒に住んでしまったことだ。なぜ養子を受け入れたのか、その記述がないので理由は分からないが、支配され続けることに慣れた越田さん、人が良すぎる夫の性格という原因が同居という不幸の始まりを迎えたのだろう。本書では夫婦生活が崩壊していく様子が克明に描かれており、読むに堪えなかった。夫婦で楽しく話していると、まるで夫を奪い取るかのように、絶対に割って入ってくる毒母。その毒母の機嫌を取るため、嫁ではなく、娘を演じてしまう越田さん。それを怪訝に思いつつも、なんとか夫婦生活を築こうとする夫だったが、すべての自信を奪い取られてしまった越田さんは夫の気持ちをないがしろにするような言動を繰り返し、夫は段々ストレスをためていく。セックスレスも不満の1つとなった。やがて夫婦関係は一度も修復することなく終わりを迎えてしまう。あまりに悲惨だった。

■何度も逃げ出すチャンスはあった

 本書の大部分は越田さんの回想だ。幼少期の頃も、この結婚生活のことも、出来事や気持ちが詳細に書かれている。どうしてこれほど覚えていられるのかと舌を巻く。もしかすると越田さんは人生の記憶を何回も思い出し、その過去を嘆きながら生きてきたのではないか。だからあらゆるネガティブエピソードを克明に覚えているのではないか。ちなみに、本書を読む限り彼女には毒母から逃げ出すチャンスが何度もあったように感じる。しかし生まれた時から続く毒母の言動が越田さんの心の足かせとなり、見えない支配となって正常な判断能力を奪ったのだろう。

 正直に言えば、本書の内容は悲惨なので興味本位で購入するのはオススメできない。しかし自己評価が低い人は買うべきだろう。その原因に毒親の存在があり、本書がそれに気づくきっかけとなるかもしれない。また、家族との関係に悩む人も買うべきだ。本書に自分自身の未来が書かれているかもしれないからだ。離婚後、越田さんに待っていたのは本当の地獄だった。これ以上ない悲惨な話が書かれていた。そして本書の最後、彼女は毒母の支配から逃げるように実家を出ていく。ボロボロになりながら。現在、どのような生活を送っているのだろうか。越田さんに幸せな日々が訪れることを切に願う。

文=いのうえゆきひろ