警察には動物を専門に扱う部署がある!? 希少動物専門の警察官の実録ドラマ

社会

2017/9/27

『警視庁 生きものがかり』(福原秀一郎/講談社)

 テレビドラマにもなったミステリー小説の『警視庁いきもの係』(大倉崇裕/講談社)は、逮捕や拘留された容疑者のペットを保護して世話をする「総務課・動植物管理係」を舞台に、主人公たちが動物の生態をもとにして事件解決に奔走するが、実際にはそのような部署は存在しない。

 しかし、警察で動物の世話をする部署はある。いわゆる落とし物、遺失物の窓口は警察署内の会計課などが担当しており、動物が落とし物として届けられると持ち主を探すあいだに世話をしたり動物園に引き取りを依頼したりすることもあるそうだ。とはいえ、やはり専門の部署というわけではなく、他に動物を扱う部署は無いものかと思い調べてみたさいに、この『警視庁 生きものがかり』(福原 秀一郎/講談社)を見つけた。

 動物好きで熱帯魚を飼っている著者は現役の警察官で、2002年10月に警視庁に創設された生活環境課の「環境第三係」に主任として着任したという。生活環境課は不法投棄など環境に係る犯罪を取り扱う部署であり、環境第三係は絶滅のおそれのある動植物の密輸・売買事件の捜査をするそうだ。盗難事件においては盗まれた物の特定が必要なため、市川市動植物園からレッサーパンダが盗まれたさいには写真をもとに、個体によって白い模様のつき方が違うことのレクチャーを受ける。そうして民家で飼われているという情報を得てガサ入れ(家宅捜索)に向かい、購入した相手に「これは盗品だから差し押さえする!」と宣言するものの、その後が大変。レッサーパンダは案外と凶暴で、そのうえ警戒もしているから爪を立てて激しく抵抗してくる。やむなく市川市動植物園に連絡して、現場近くの動物園から飼育員と獣医を派遣してもらい捕獲となった。

 本書にはマダガスカル固有のホウシャガメといった希少動物の図入りの解説があり、それらも興味深いが刑事モノとしても大変面白い。なにしろ著者自身が刑事ドラマの『太陽にほえろ!』に憧れて警察官になったとのことで、密輸ブローカーの主犯格を逮捕するくだりはノンフィクションだからこそのリアリティだ。相手はマダガスカルにおいて爬虫類の密輸出の罪で刑に服しており、日本の警察が逮捕することはできない。そこで、外務省を通じて交渉し受刑者を釈放してもらうのだが、いずれにせよ現地で逮捕することはできず、さらには日本への直通の空路が無い。そのため相手に同行しタイを経由したところ、著者が懸念したとおり犯人に逃亡されてしまう。しかし、著者は先手を打ってタイにエス(スパイ)を雇っておき、逃亡した犯人の行動を逐一報告させていたのだとか。そして、犯人のパスポートの在留期限が終わりタイ警察に身柄を拘束されたさいに駐在員を介して引き取るものの、やはり逮捕はできない。最終的には搭乗する飛行機の機長の協力を得て、飛行機が公海上に出たところで公海証明書(原文ママ)を発行してもらい、ようやく機内で逮捕にこぎつける。

 著者が本書を執筆した動機を、「そろそろ後進に道を譲る時期に差しかかったと考えはじめました」と述べているように、「今日の勤めに田草を取る」といった教訓めいた話も出てくるけれど、決して説教臭くはない。「嵐が来て、収穫できないかもしれないと心配するより、今はとにかく目の前の雑草を取り除くことが大事」というそのメッセージは、特に若い世代に意味のあるものとなるはず。生活環境課ができる以前から、動物好きなことを十八番としてきた著者は、通称「ワシントン条約」に基づく国内法に違反する事件を長年追ってきた。それこそ環境第三係の主任を拝命する未来など想像すらできずに、目の前の事件を地道に捜査してきた結果として、全国でも珍しい「希少動物専門の警察官」となったのだ。そんな一人の警察官の生きざまに触れるのもまた、ドラマチックな体験となるだろう。

文=清水銀嶺