渋滞解消・駐車場も不要!? ドライバーレス時代における私たちの生活

社会

公開日:2017/9/28

『ドライバーレス革命 自動運転車の普及で世界はどう変わるか?』(ホッド・リプソン、メルバ・カーマン:著、山田美明:訳/日経BP社)

 自動車は仕事や家庭生活を送る上で私たちの暮らしになくてはならないものだ。しかし、世界では毎年120万人もの人間が交通事故で命を落としていることをご存じだろうか? ドライバー・警察・市民らによって交通事故を防ぐ取り組みは行われているが、人が運転する自動車ではどうしても人為的ミスによる事故は、なかなか防ぎにくいところがある。

『ドライバーレス革命 自動運転車の普及で世界はどう変わるか?』(ホッド・リプソン、メルバ・カーマン:著、山田美明:訳/日経BP社)では、“運転の完全自動化”とそれが与える社会的な影響が考察されている。

 本書では人間が運転する自動車に取って代わって、進化したAI技術を駆使した自動車が今後数十年の間に社会を大きく変えていくことを指摘している。地球上で約10億台が走る自動車がオート化されることで私たちの考え方や通勤・買い物・居住場所といったライフスタイルも大きく様変わりしていくという。交通事故を大幅に減らすことが期待され、AIによって最適な経路をたどるため渋滞の緩和や余分な道路を建設せずに済むといったメリットがあげられている。

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 一見して良いことずくめの運転自動化であるものの、負の側面も持っているのは事実だ。まず、ドライバーを必要とする職業である長距離トラックの運転手やタクシードライバーなどの雇用が失われてしまうことになる。関連する業種も含めれば運転の完全自動化が私たちの雇用に与える影響は大きい。

 そして、“個人情報”の問題もある。たとえば、タクシーを利用する際には人間のドライバーが乗客を目的地に運び、料金を精算するシステムだ。しかし、AIによって自動運転が実現されたタクシーであれば、乗客のモラルだけに頼っていてはシステムそのものが成り立たない恐れがある。車内をゴミで散らかしたり、落書きをしたりといったこともあるだろう。また、乗客が料金を支払わないといったことも想定される。そうしたことを防ぐために、個人情報が記載されたICカードを乗客はタクシーを利用する際に提示しなければならないかもしれない。本来であればタクシードライバーが乗客の名前を知ることはないが、自動運転が進んだ社会ではいたるところで、個人情報を提示しなければならないだろう。

 さらに自動車に対する保険のあり方も大きく変化していく。従来の自動車保険はドライバーの運転リスクによって保険料が決まっている。年齢や運転歴によってはじき出されている保険料の計算は、ドライバーのいらない時代では意味をなさなくなってしまう。自動運転の社会では人的なリスクよりも、車そのものが持つ潜在的なリスクに対して保険料が定められると本書は指摘する。法的な責任がドライバーから、車のメーカー側に移るということだ。ただ、車の欠陥といってもさまざまな部分がある。部品などのハード面とAIなどのソフトウェアの面だ。そのため、タクシーなどの乗客は利用する際に膨大な契約書への同意が求められ、車が衝突事故を起こしたとしても補償を求めないといった時代が到来するかもしれない。

 運転の自動化の実現までにはまだ時間がかかるとは言われているものの、交通事故を減らしたい、渋滞を緩和したいというニーズが衰えることはないだろう。そして、AIなどの技術の進歩は年々進んでいる。高齢者のドライバーの事故が多発する日本においても、運転の完全自動化は望まれる技術だ。来るべきドライバーレス時代に備えて、あらためて人と車がどう向き合うかを考えさせてくれる1冊である。

文=方山敏彦