突然さらわれて、神様の「料理番」に任命!? 料理が大好きな少女が神様の「美味い」を求めて奮闘!

文芸・カルチャー

2017/9/29

『神様のごちそう』(石田空/マイナビ出版)

 とある商店街には、「呪われた神社」として近所の人々から怖れられている神社がある。その神社では実際に何人もの人が行方不明になっており、街には「神隠し」の噂が流れていた。近所に住み、高校を卒業後、料理人になるべく調理学校へ通うことになっていた夏目梨花(なつめ・りか)は、そんな噂は信じていなかったのだが……。

『神様のごちそう』(石田空/マイナビ出版)は、神隠しに遭い、突然「神様の料理番」に任命されてしまった少女が、いつも不機嫌で、怖くて、いじわるで、だけど、本当はとっても繊細で「人間想い」な神様の「美味い」を求め、奮闘するあやかしグルメ奇譚である。

 人々が近づかなくなった神社の前を通り過ぎようとした梨花は、犬の鳴き声らしき音を聞きつける。気になって境内に入ると、そこにいたのは白装束を着て、顔に天狗のお面をし、背中に黒い羽を生やしている怪しい男。その男のすさまじいお腹の音が、犬の鳴き声として聞こえていたのだ。

 梨花は持っていた手作りケーキを男に食べさせると、男は「代わりが見つかった」と、黒い羽を広げ、梨花を抱えて飛びはじめた。

 お腹を空かせた男が人間ではないと気づいた時には、すでに遅し。男は烏丸(からすま)と名乗り、梨花は「神域」と呼ばれる神様の世界へと連れ去られる。

 神域に向かう途中で烏丸が言うには、呪われた神社――豊岡神社の御祭神は御先様(みさきさま)という神様で、いま、お腹を空かせているらしい。神社の管理をする人間たちがいなくなり、神様の食事であるお供え物が絶えて久しいからだ。このままでは御先様は「邪神」となり、梨花の住んでいる街が人の住めない穢れた地になってしまう可能性もあるとか。そのため、烏丸は人間をさらってきては、御先様の空腹を満たす役割を与えているという。

 そして、新しい「料理番」として梨花が抜擢されたというわけだ。

 梨花は突然の事態に混乱しながらも、とにかく御先様に捧げるための料理を作ることに決めた。だが、神域にはガスもなければ、調理家電もない。調味料もとぼしい。醤油も豆腐も、昆布もかつお節もない。

 しかし、人間の世界にはいない愛らしい付喪神たちがいた。火を熾してくれる火の神や、野菜をくれる鍬神など。
梨花は知恵をしぼり、付喪神たちの助けを借りながら、料理を完成させていく。最初は料理を出すことだけに必死だった梨花だったが、御先様に料理を振る舞っているうちに、気持ちに変化が訪れる。どうにかして御先様を笑顔にさせる料理を作りたいという気持ちが大きくなっていき、梨花の料理はどんどん成長を遂げていくのだった。

 一方で御先様の悲しい過去や、烏丸の抱える秘めた想いも明らかになっていく。梨花はそれを知るたびになんとか御先様を助けたい、御先様の神社を活気のある神社にしたいと考えるようになるのだが、そのためには元の世界に戻らなくてはいけない。

しかし、人間に裏切られてきた御先様は、梨花が御先様のために人間界に戻りたいと願う気持ちを信じることができず……。

 梨花の作る和食を中心とした料理は、どれもこれもおいしそうで、読んでいるとお腹が空いてくる。そして、梨花の「がんばり」と御先様の隠された優しさを感じることで、胸がいっぱいになるハートフルなグルメ小説だった。

 読めばあなたも、心を込めた料理を大切な人に振る舞ってあげたくなるはず!

文=雨野裾