富野由悠季監督と共に時代を築いたクリエイター・湖川友謙の足跡を今、たどる!

アニメ

公開日:2017/10/1

『湖川友謙 サンライズ作品画集』(湖川友謙/一迅社)

 ロボットアニメが不振であるといわれて久しいが、それでも2017年9月現在放送中の『ナイツ&マジック』はなかなか面白い。その中で次回予告に主人公が「○○がボクを呼ぶ!」と締めに叫ぶが、おそらくこのネタは1983年に放送されたロボットアニメ『聖戦士ダンバイン』の次回予告「戦雲がショウを呼ぶ!」を元にしていると思われる。この『聖戦士ダンバイン』の監督は富野由悠季氏。『機動戦士ガンダム』など多くの傑作で知られる監督だ。

 富野監督のパートナーとしては、やはり『ガンダム』でキャラクターデザインを務めた安彦良和氏がよく知られるところだが、もうひとり、忘れてはならない存在がある。それが「湖川友謙」氏であり、先述の『聖戦士ダンバイン』でキャラクターデザインを務めた人物だ。そしてこの度、湖川氏がアニメ制作会社「サンライズ」で手がけた作品のイラストを集めた『湖川友謙 サンライズ作品画集』(湖川友謙/一迅社)が発売された。

 湖川氏の描くキャラクターは、いわゆる「アニメ絵」とは一線を画する。本書冒頭の寄稿文にて富野監督が「湖川の作画には質量があり、キャラクターには肉づきがあって、それが重さとなっている」と述べているが、まさに正鵠を射た指摘だ。その感じかたは「リアル感」のそれであり、湖川氏のキャラクターは「リアル」なのである。

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 本書でも多く紙幅を割いて掲載している氏の代表作『伝説巨神イデオン』でもそれは感じられる。主人公のユウキ・コスモという人物は、一見するとかなり異様なキャラクターだ。その髪型がなんと「アフロヘアー」なのである。一般的な主人公の造形ではほとんど用いられない、相当な変化球といえよう。しかしコスモはメインキャラとして大任を果たし、『イデオン』は多くのクリエイターに影響を与えた伝説の作品となった。氏の描くコスモが奇抜なだけのキャラではなく、質量をともなった「リアル」な存在であったことが受け手に伝わった証であろう。ちなみに現在でもアフロの主人公は稀有であるが、最近では『神撃のバハムート GENESIS』という作品の主人公・ファバロが該当する。キャラクターデザイナー・恩田尚之氏の手腕によって難しいキャラクターが見事に成立していたが、彼が湖川氏の設立した作画スタジオ「ビーボォー」出身であることも、やはり注目すべき点であろう。

 そんな氏の「リアル」なスタイルの原風景はどこか。掲載のインタビューによれば、それは『ゴルゴ13』などで知られるさいとう・たかを氏の影響が大きいという。湖川氏は手塚治虫先生を筆頭とした「マンガ絵」には興味がなかったが、さいとう氏の劇画タッチで描かれた「007」には衝撃を受けた。「さいとう先生がいなかったら、私はこの世界にいなかったと思う」とまで述べている。確かに一般的な「アニメ絵」と比較すれば、湖川氏の描く人物はアニメにおける「劇画」といえるかもしれない。さらに氏は「骨格のない、立体然としていないキャラは嫌い」とし、現在のアニメはそういうキャラが氾濫していると指摘している。

 これと似たことは寄稿文で富野監督も「昨今の現場とマーケットが、一方向の時代的に偏向したものの氾濫がある」と語っている。そういう想いが同じであるならば、このコンビの復活もまたあり得るのではないか。2015年に放送された『ルパン三世PART4』でクレジットに「湖川友謙」の名を見たときはその健在ぶりに喜びもしたが、やはり氏のオリジナル新作キャラを見てみたい。そしてその監督が富野氏であるならば、これはまさに至福というべきであろう。

文=木谷誠