14年間で万引き6000回。4回逮捕され、2度刑務所に…元「万引き女子」が綴った半生

社会

更新日:2017/10/23

『万引き女子 〈未来〉の生活と意見』(福永未来/太田出版)

 4615億円――これは日本国内の年間万引き被害額。1日あたりだと約12.6億円もの被害が出ているという。ちなみに「オレオレ詐欺」といった特殊詐欺の被害額がおよそ400億円。万引きの被害がいかに甚大であるかわかるだろう。

 なぜ万引きをするのだろうか。「食料を買うための資金がなく生きるため」という理由であれば、決して許されることではないが、情状酌量の余地がありそう。しかし、中には商品を買うお金を持っているにもかかわらず「スリルを味わいたかった」「寂しかった」「ストレス解消のため」といった理由から万引きを繰り返す犯人も多いそうだ。

 今回紹介する『万引き女子 〈未来〉の生活と意見』(福永未来/太田出版)の著者もお金を持っていても万引きを繰り返す常習者だった。14年間でおよそ6000回万引きをし、警察に4回逮捕され、2度刑務所生活を経験した著者。その後、万引き癖を克服し、新たなスタートを切った彼女の半生が綴られている。

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 そもそも、著者が育った環境は良好とは言えない。幼少期から高校を卒業するまで父親の性暴力、姉や同級生からのイジメ、そして母親からの罵倒・暴力による虐待に苦しみ、悩んでいた。そんな彼女が万引きをする理由は「スリルを求めているから」ではなく「ただで物が欲しい。親に頭を下げずに物を手に入れたい」から。そして、万引きをしないことが“損”であると思うようになったそう。やがて万引きをすることが日常生活の一部となる。万引きを止めたいと思っていても、止めることができない。なぜなら、万引きをすることで、自我を保っていたからだ。万引きをしない自分には価値がない。そのように精神的に追い詰められ、一方で万引きに救われていた。

 しかしどのような事情があろうと、万引きは窃盗罪。当然ながら社会的に許されるものではない。「10年以下の懲役もしくは、50万円以下の罰金」が科される。そうであっても、著者のように万引きを心の拠り所としている常習者も多いのでは、と読了後、考えてみた。スポーツや仕事、恋愛など健全な拠り所を見つけることができれば、幸せだろう。だが、見つけた拠り所がたまたま万引きだった。そんな罪の意識と救われたいと願う思いに挟まれる彼らの苦悩は計り知れない。

 著者は一度、結婚をしていて一児の母でもある。現在は離婚が成立し、子どもとも離れ離れで暮らしているという。本書によれば、元夫は何度も逮捕される妻を献身的に支えていたそうだ。しかし度重なる再犯の結果、別々の道を歩むことに。「配偶者への愛があれば、子どもへの愛情があれば乗り越えられる」ほど、クレプトマニア(窃盗癖)と向き合うことは容易くない。後悔や惨めさ、辛さを綴った文章を読むと、そのことが痛いほど感じられる。

 本書を読み、一番考えさせられたのは、愛する家族や友人、恋人が、かつての著者のような万引き常習者となった時、何ができるのだろうか、ということだ。説得か、監視か、あるいは何もできず見て見ぬ振りか。万引きという問題は、万引きをした本人だけが抱えるものではない。周囲にいる我々もどのように彼らに接するべきか問われている。本書を読み、そのように感じた。

文=冴島友貴