「バスタ新宿」は新宿区じゃない?! 校閲記者に学ぶ身近な「再認識」の数々

ビジネス

公開日:2017/10/4

『校閲記者の目 あらゆるミスを見逃さないプロの技術』(毎日新聞校閲グループ/毎日新聞出版)

 自分は知っていると思っていた知識が、実は間違っていて恥をかいたことはないだろうか。人生、恥だらけだよと様々な過去が思い浮かぶが、例えばこちらはどうだろうか。「JR新宿駅は新宿区にあるが、目黒駅は品川区にある」「JR新宿駅は新宿区にあるが、バスタ新宿は渋谷区にある」。「えっ、そうだったの、知らなかった」と思うのは筆者だけではないだろう。

 バスタ新宿が渋谷区にあることは、なんと新聞記事でさえ間違えたことがあるのだ。2016年4月にオープンした新宿駅直結のバスターミナル、バスタ新宿についての記事で、「東京都新宿区とあるのは東京都渋谷区の誤りでした」という訂正記事が出たことがある。新聞でさえ間違えることがある、人のやることなのだから当然だ、私だけじゃないよねとちょっと胸をなでおろす…。しかし、新聞社にはミスをゼロに近づけるべく、記事の正誤をチェックする校閲記者という職種が置かれているのであった。『校閲記者の目 あらゆるミスを見逃さないプロの技術』(毎日新聞校閲グループ/毎日新聞出版)は、そのタイトルの通り、校閲記者が、実例を挙げて「校閲記者とは」を紹介した一冊だ。本書から、知っていると胸を張れる常識(?)をご紹介しよう。

 まずは、校閲記者とは何なのか記しておこう。校閲とは「文章や原稿などの誤りや不備な点を調べ、検討し、訂正したり校正したりすること」で、校閲者は、いわばミスをくい止めるキーパー的存在だ。雑誌や書籍制作の現場では、校閲者・校正者と呼ぶことが多いが、校閲記者という言い方をするのは新聞社ならではだ。取材に走りまわって記事を書く記者とは違い、表に出ない地味な職種だが、校閲記者は、誤字を正し事実と違う文言を訂正することで、正確で信頼のおける新聞作りに貢献している。ここからは、実際にあった例を紹介しよう。

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1 誤字

「×ワシンントン→○ワシントン」「×荻野公介→○萩野公介(水泳選手、はぎのこうすけ。おぎのではない)」「×管義偉官房長官→○菅義偉官房長官(すがよしひでかんぼうちょうかん。くだではない)」「×くまもん→○くまモン(熊本のゆるキャラ。もんはカタカナが正式)」などだ。誤字なんてすぐ気づくだろうと思うだろうが、文章を内容優先で読んでしまうと、案外目に入りにくいものだ。

2 事実と違っていないかどうか。

 こちらは、冒頭に挙げたような住所表記など、記事すべての語句にチェックをかける。例えば、「×民主党のトランプ大統領→○共和党のトランプ大統領」「×うまか棒→○うまい棒(「うまか棒」は明治のアイスキャンディーで、「うまい棒」はやおきんのスナック菓子。両方存在するが、書き手は「うまい棒」を想定した文章で「うまか棒」と記してしまったため訂正が入った)」「×ニュートリノは光よりも速く星から飛び出す→○ニュートリノは光よりも早く星から飛び出す(星が死ぬときの超新星爆発の記事にて。スピードが「速」いのではなく、光よりも先に飛び出すと言いたかったので「早」くとなる)」などだ。

 本書を記した毎日新聞校閲グループの職場には、「一字一句 見落としならぬ 舞台裏」で始まる「校閲いろは唄」というものがあり、自ら気を引き締めて仕事をしようという校閲記者たちの姿勢が表れる。現在毎日新聞には、東京本社には40人あまり、大阪本社には30人あまりの校閲記者がいる。正確さとスピードを求められる上、朝刊の校閲作業は深夜になるため夜型の生活を強いられるといい、ハードな現場だ。

 新聞と比べるのもおこがましいが、かくいうこの記事も校正の方のチェックが入り、いつも筆者は頭を下げどおしだ。しかし「へえ、そうだったのか」と恥じ入るのは、それを学ぶことでもある、と自分を慰めつつ今日もこうして記事が出来上がっていく。

文=奥みんす