心配性や潔癖性とどう違うの? 小さなことが気になってやめられない、“強迫症”

健康・美容

公開日:2017/10/5

『こころのクスリBOOKS よくわかる強迫症――小さなことが気になって、やめられないあなたへ』(上島国利:監修、有園正俊:著/主婦の友社刊)

 あなたは“日常生活の中で、なかなかそれをやめることができない習慣”をもっていたりしないだろうか。

 たとえば、「ワイングラスをきれいに並べるのが自慢で、よく磨いてきちんと並べたくなる」とか、「好きな人のことを一日中考えてしまう」など。それが楽しく適度に行っているのならば、やめられなくても問題はない。

 しかし「わずかな汚れが気になって、何度も手を洗わずにいられない」「戸締まりが気になって、何度も確認してしまう」などの行為が過剰になり、そのことで生活に支障が出て悩むほどだとしたら、強迫症を疑ったほうがいいかもしれない。

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 前者と後者の違いは“好きで行っている”のかどうか。不安や恐怖、嫌悪などのイヤな感情を打ち消したくてその行動がやめられず、日常生活に支障が出てしまうレベルにまで至った場合は、強迫症(OCD)という心の病気だとされている。

 そんな強迫症についてわかりやすくまとめた本が、『こころのクスリBOOKS よくわかる強迫症――小さなことが気になって、やめられないあなたへ』(上島国利:監修、有園正俊:著/主婦の友社刊)だ。著者である有園正俊氏は、かつて自身も強迫症に悩んだ患者であり、一時はイラストの仕事を辞めざるを得なくなったが、そこから克服して現在は認定行動療法士・精神保健福祉士としてカウンセリングの現場で活躍している。そのため著者自身が描いた本文イラストとともに患者や家族の細かい気持ちを解説し、当事者に寄り添うやさしい紙面が特徴だ。

 まず冒頭は、前出のやめられない行為から選択する「これは強迫症?」というクイズで始まり、続くプロローグでは「強迫症のために、本を読むのが苦手な人」に向け、本書の読み方がガイダンスされている。最初はイラストや図をパラパラながめるだけでもOK。こだわらずにとにかく先の行に進んでいく、100%ではない“不完全な読書”で大丈夫と書かれており、この時点で心がちょっと軽くなる。

 そして小見出しをななめ読みするだけでも、この病気の症状や及ぼす影響のアウトラインが、頭にすっと入ってくる。

主な症状
強迫症は「とらわれの病」/強迫観念にとらわれ、強迫行為を行う/汚染が怖くて、洗わずにはいられない/何回やっても、確かめずにはいられない/嫌な考えが、何度打ち消しても思い浮かぶ/悪循環にはまるとコントロールできなくなる/警戒と緊張でとても疲れる etc.

影響
強迫症は、生活のすべてに影響する/症状に時間が奪われ、普通の生活が困難になる/家族も症状に支配されて生活が不自由になる/自分に自信がなくなり、うつ病を併発することも etc.

原因
強迫症の原因は、1つではない/大きな出来事やストレスがきっかけになることも/脳神経のはたらきに関係していることがわかっている etc.

 章の間には患者の体験談が挿入され、この病気に対する理解をさらに深めてくれる。たとえば42歳の女性リリーさんの場合は、思春期に洗浄強迫と確認行為が始まり、結婚4年目に不潔恐怖の症状が出て、料理などの家事や外出ができなくなった。強迫症は症状に悩む本人だけでなく、同居する家族の生活にも支障が出ることがあり、家の中で彼女が考えるきれいな場所を聖域と定めて、夫にも自分以外立ち入り厳禁にするなどのルールを強要、一時は夫婦生活破綻の危機に陥ってしまった。

 しかし、著者の有園氏が克服したように、強迫症は適切な治療によって改善が期待できる病気だ。その標準的な治療として、薬物療法と認知行動療法があげられている。まずは精神科の医療機関で医師の適切な診断を受けること。初めての受診は誰でも緊張するものだが、前出のリリーさんは「担当してくれた先生は私と同年代の、もの静かなやさしい女医さん。精神病院は想像していたのとはまったく違っていた」と語る。

 強迫症に苦しむ人にとって、認知行動療法は当初はつらいものであるかもしれない。症状を観察して行動を分析し、イヤなものに向き合う訓練を行い、それを不快な気持ちが弱くなるまで続けることで症状の改善を目指すからだ。職場の異動からうつ症状が出て休職したのを機に、ゴキブリが汚いと思い始めた42歳の男性M・Tさんの場合、薬物療法とカウンセリングでよくなるきざしがみられなかったため、認知行動療法を受けたいと自ら主治医に申し出た。そして強迫症状のきっかけとなる「ゴキブリが出たところに触る」目標を、1年かけて達成することができた。結果、ゴキブリの出た場所の近くにあるエアコンのスイッチを触ることができるようになり、快適に生活しているという。

 強迫症では、子どもの発症、発達障害の併存、症状への家族の巻き込み、不登校やひきこもりが長期化しているが受診していないなど、患者や家族の悩みにはさまざまな場合があり、それらについても図を用いて解説されている。また、日常生活を維持し、社会とのかかわりをとり戻すためには、その人に合った支援が必要な場合もある。巻末には就労関係の相談先や、患者や家族のための自助グループ、支援・相談機関の情報もまとめられていて参考になる。

 今、自分ひとりで強迫症に悩んでいる方、現在症状に悩む人を家族にもつ方は、ぜひ本書を気軽に何度もパラパラめくってほしい。気になった箇所をひろい読みすることからでも、症状改善のスタートラインが模索できるはずだ。

文=タニハタ マユミ