19世紀のアメリカを震撼させた世界初のシリアル・キラー。未解決に終わった事件を追うノンフィクション

社会

2017/10/9

『ミッドナイト・アサシン アメリカ犯罪史上初の未解決連続殺人事件』(スキップ・ホランズワース:著、松田和也:訳/二見書房)

 19世紀末のアメリカは西部劇などで描かれる「開拓時代」として知られている。新たに造られた町が発展し、新大陸での夢と希望に住民たちは心を躍らせていた。しかし、一般的に流通している開拓時代の美談とはかけ離れた、アメリカの闇も蠢いていたのである。

『ミッドナイト・アサシン アメリカ犯罪史上初の未解決連続殺人事件』(スキップ・ホランズワース:著、松田和也:訳/二見書房)は開拓時代のアメリカで起きた連続殺人事件についてのノンフィクションだ。残虐な手口、未解決という後味の悪さなども十分に読者を引きつけるだろう。そして、リアルな描写の数々から、歴史上ほとんど語られてこなかった「ミッドナイト・アサシン」の凶行を、まるで最近の出来事のように恐怖するはずだ。

 1884年12月31日未明、テキサス州オースティン。若い黒人で女中のモリー・スミスがベッドで惨殺死体となって発見された。頭は真っ二つに割られ、全身を無数の刺し傷が覆っていた。内臓も飛び出すなど、目も当てられない状態だったという。その後も、黒人の女中を狙った謎の銃撃事件が発生。平和だったオースティンの町に緊張が走っていく。

 そして、翌年の5月には同じく女中で生計を立てていたイライザ・シェリーが似た手口で殺される。約2週間後にも黒人で炊婦だったアイリーン・クロスが頭や腕を斧のようなもので切断されて死んでいるのが見つかった。イライザもアイリーンも同居している家族がいたにもかかわらず、殺されたのは彼女たちだけだった。犯人は黒人の若い女性で、使用人として働いている人物だけをターゲットにしていたのだ。新聞は事件を大々的に報道し、野放しにされている連続殺人犯を「ミッドナイト・アサシン(真夜中の暗殺者)」と呼んだ。

 当時のオースティンは小さな西部の町ながら、急速に面積も人口も増え続けており、大都市の仲間入りをはたそうと町全体が活発に動いていた。ミッドナイト・アサシンの犯行は、上昇ムードに包まれていた住民たちに冷や水を浴びせるような事件だったのである。

 オースティンの平和を脅かす殺人犯の捜査がはかどらなかったのは、いくつかの理由がある。まず、当時の根強い偏見により、知識人は犯人が黒人男性だと決めてかかっていた。そのため、警察も被害者周辺の黒人男性だけを疑い、客観的に捜査ができていなかったのである。また、DNAはおろか指紋捜査も導入されていない時代だったのも、犯人が割り出せなかった原因だろう。

 しかし、何よりも大きかったのは事件が開拓時代のアメリカ国民の想像力を凌駕していたからだ。

だが、当時の人間は、女を一人また一人と、あたかも儀式のように解体していく匿名の殺人鬼など聞いたこともなかった。それも、なんらかの個人的な性的な渇望、もしくは病的な憎しみを満足させる目的でである。虚構の作家ですら、このような人物をまだ創造していない。(P.180)

 おそらく、ミッドナイト・アサシンは現代なら「シリアル・キラー」と呼ばれる類の犯罪者だったのだろう。日中は虫も殺さぬような顔をして生活し、夜中になると倒錯した欲望のままに女性に向かって斧を振り上げる異常者――。しかし、19世紀のアメリカには世界初のシリアル・キラーに該当する概念がなく、実像をつかみきれないまま人々は怯えるしかなかったのだ。

 やがて、ミッドナイト・アサシンは殺意の矛先を白人女性にまで向け始める。見境をなくした殺人者に、オースティン住民はなす術もない。警察や政治家のとった対策も功を奏さず、逮捕された容疑者たちはいずれも釈放されていった。

 1年の間に少なくとも8人を殺害し、オースティンでのミッドナイト・アサシンの凶行はぴたりと止んだ。その足取りと、オースティンの狂騒を描き出す著者の取材力には圧倒されるばかりである。陰鬱な事件を扱っていながら、関係者たちの人間臭さに親近感を覚える瞬間も多い。本書のラストには、意外な人物とミッドナイト・アサシンの関連も推理されており、読者はさらなる戦慄とともに本を閉じることになるだろう。

文=石塚就一