『まどかマギカ』の新房監督も絶賛!辻村深月著『ハケンアニメ!』が文庫化

文芸・カルチャー

2017/10/10

『ハケンアニメ!』(辻村深月/マガジンハウス)

 「この間から僕に向けて言う“リア充”という言葉は、僕のように、現実のリアルしか充実していない人間を指す言葉ですか?」。2014年、小説『ハケンアニメ!』(辻村深月/マガジンハウス)が単行本化されたとき、読んでこの一文に衝撃を受けた読者は多かったんじゃないだろうか。リア充爆発しろ。このリア充め。リア充なんかに何がわかる。その屈折した物言いは、自分を卑下しているようで実は高みに置いている。相手の充実を、なんの苦労もなく手に入れたうわっつらのものであるかのように、貶めている。文庫化された今、同じことを“天才”に対しても思う。目線が高かろうが低かろうが、レッテルを貼ることで相手を勝手に定義し、正当な評価を怠ることに他ならない。あいつは才能があるから。自分とは違うから。そう言って、彼らの努力や苦しみを蔑ろにするのと同義なのだ、と。

 『ダ・ヴィンチ』本誌のインタビューで、「相手を高く仰ぎ見るふりをして、突き放したり馬鹿にしたりしていませんか、と問いかけたかった」と語った辻村深月さんは、どこまでいってもフェアな作家だ。アニメ業界を舞台に描かれたお仕事小説『ハケンアニメ!』には、その姿勢がとくに顕著に表れている。アニメが好き、仕事が好き、誰かの役に立ちたい、素晴らしい作品をつくるための一輪になりたい。想いをつきつめて走り続ける人たちの、仕事に対する真摯な姿勢。誇りと情熱が強すぎるからこそ生まれる人間関係の捻じれや衝突。そのどれも理想化しすぎることなく、驕りも、甘えも、理不尽さも、すべてつまびらかに描きだす。

『ハケンアニメ!』読者からは次のような感想が集まっている。

「働く楽しさ、辛さがいっぱい詰まってて共感できる。誠実に仕事していたら、見ている人はきちんと見てくれてるって話。お仕事本としても◎」(mikamika)

「仕事しながらこんな青春みたいなことは実際はないだろうけど、ないからこそ夢を見させてくれる作品に出会えたことは幸せだと思う」(せきね)

「いろいろな伏線が、最後に全部繋がり、あっという間に読了。アニメ業界のこともわかる楽しいお仕事小説でおススメできる。」(がばいおばちゃん)

「アニメファンとしては、貴重な裏側を知る事が出来て良かったです。ファンが勝手な評価をしている裏側では、多くの人がより良い物を生み出すために関わっていたのですね。」(よっしー)

 『ハケンアニメ!』というタイトルは、そのクールを制して覇権をとるナンバーワンアニメの意。本作は、ハケンアニメをめぐる大人たちの命を懸けた闘いの物語だ。9年ぶりに復活を遂げる伝説のアニメ監督・王子と、そのライバルと目される新進気鋭のアニメ監督・瞳。どちらも天才と呼ばれる類の才気にあふれているが、その葛藤や懊悩は凡人の努力などはるか及ばぬほど深い。できて当たり前だと思われ、結果を出さなければ叩かれる。それでもその理不尽を引き受け、才能をあますことなく振り絞るため、血反吐を吐いても足りない努力を重ねている彼らの姿に、襟を正さずにはいられない。と同時に、辻村さんは天才が一人存在していたところで何事もなしえない現実も描いている。プライベートを投げうち王子を支え、プロジェクトの成功に奔走するプロデューサー・香屋子。王子の対抗馬として瞳を育てる敏腕プロデューサーの行成。アニメ原画を描く和奈や、フィギュア作家の逢坂、聖地巡礼をしかける市役所の宗森など、作品を支える縁の下の力持ちがそれぞれの現場で戦う姿が、辻村さんの全力の敬意をもって物語に組み込まれている。

 巻末収録の対談で、『魔法少女まどか☆マギカ』の新房昭之監督は辻村さんにこう語っている。「あるときを機に売れないとダメだと明確に思うようになった(略)。アニメは消費されて初めてみんなで作った甲斐があるのだと、やっと気づいた」。現実と理想、そのどちらが欠けても成立しない極限の現場を生き抜いてきた監督に「続きが読みたい」といわしめた本作。どんなに厳しい現実にあっても「アニメが好きだ」「仕事が好きだ」と胸を張ること。胸を張るために自分のなすべきことをすること。「好き」という単純な言葉が、これほど強い意味をもつ作品はそうはない。どんな業界であれ、矜持をもって働くすべての大人たちの心を、強く揺さぶる作品なのである。

※読者コメントはドワンゴが運営する「読者メーター」より引用

文=立花もも


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