季節の物をおいしくいただく最高の「ぜひたく」! 漫画家・きくち正太氏の「食」事情【作ってみた!】

食・料理

公開日:2017/10/12

『あたりまえのぜひたく。~定番、国民食は玉子焼き。~』(きくち正太/幻冬舎)

 漫画家といえば、原稿作成に際してアシスタントを雇っているところが多いであろう。分業体制で行なわなければ大変な仕事だからだ。そして締め切り前ともなれば、作業は深夜にまで及ぶことも。ここで気になるのは、彼らの「食」事情である。コンビニ弁当で済ませる場合も多そうだが、最近では作家自身が「職場メシ」ともいうべき日々の食事レシピを紹介する作品も存在する。『あたりまえのぜひたく。~定番、国民食は玉子焼き。~』(きくち正太/幻冬舎)は、漫画家・きくち正太氏の食事情を描いたエッセイコミックだ。

 きくち氏といえば『そばっかす!』や『おせん』などの作品で知られ、その独特な画風にはファンも多い。ガラスペンを使用するなど多くの「こだわり」を有している氏であるが、やはり「食」に関しても同様だということが本書で窺い知れる。

 きくち氏の仕事場は、自宅兼用である。それゆえ「職場メシ」に関しては「おカミさん」こと氏の奥さんが担当しているという。外食なども多いであろう業界において、この環境は実に恵まれているといえそうだ。本書で紹介されていたのは「すいとん」。きくち氏は連載2本、締め切りは月に3本以上を抱えるため、アシスタントも総勢3名、多いときで4名になる。ゆえに拵える量もハンパなく、お椀にしてなんと20杯! それをおカミさんは、慣れた手つきで食材を鍋へ切っては投入、切っては投入を繰り返し、ものの30分程度でしこしこ食感の「すいとん」を完成させてしまうのだった。すいとんはおかわり自由で足りなければおむすびも用意されるという、まさに至れり尽くせりな環境なのである。

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 もちろん、こういった大所帯用の料理ばかりが紹介されているわけではない。きくち氏自身も料理を嗜み、カボスで自家製ポン酢を作ったり、ストーブを利用してカレーパンを拵えたりと、かなり手馴れたもの。氏の出身地である秋田県の縁者からはハタハタなど季節の品が届き、まさにこれ以上ない「ぜひたく」を味わっているのである。

 ゆえに登場する食材は地方のものや高級すぎるものが存在し、気軽に「ちょっと試してみるか」というわけにはいかないところ。しかも漫画で作りかたは解説されているが、明確なレシピなどはほとんど掲載されていないので、再現するには少々ホネが折れそうである。それでもつらつら眺めてみれば、秋の季節ならではの一品がタイミングよく描かれており、作れそうでもあった。なので材料を探してチャレンジすることに。

【茗荷味噌】

 この料理はきくち氏が地元の秋田で、新米の季節になるとご飯を何杯もおかわりしたというもの。茗荷というと、少量がパックで売られている印象が強いが、秋になると「秋茗荷」が出回る。生食するには「えぐみ」が強いため大量に袋詰めされ、しかもお手ごろな値段で手に入るのだ。もちろんどこにでもあるというわけではないが、必死に探して何とか入手に成功。作品中には明確なレシピがないので目分量だが材料は「茗荷(袋詰め)500~600gくらい」「油揚げ1枚」「赤唐辛子1本」「味噌適量」「みりん適量」以上である。作りかたは以下。

1.水洗いした茗荷を縦半分に切って、ひたすら小口に刻む。
2.油揚げを横に4等分し、それを縦に極薄に刻む。
3.鍋に火をかけごま油を入れ、輪切りにした赤唐辛子を入れる。
4.茗荷と油揚げを鍋に入れ、炒める。
5.味噌とみりんを2:1で混ぜ、鍋に投入。
6.炒めすぎないように全体を大きく練って、完成。

 茗荷は独特の風味で好き嫌いの分かれる食材だが、味噌と合わせると風味が抑えられ、非常に食べやすくなる。きくち氏のいうようにご飯にのせれば、大げさでなく何杯でもおかわりできそうだ。肉や野菜などにも合わせられるので、秋茗荷を見かけたらぜひ試してみていただきたい。

文=木谷誠