飛行機に乗ったらまず何をすべき? リスク社会を生き抜くために知っておきたい、巨大事故にそなえてすべきこと

社会

2017/10/13

『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』(ジェームズ・R・チャイルズ:著、高橋健次:訳/草思社)

 なんとも衝撃的な邦題である。『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』(ジェームズ・R・チャイルズ:著、高橋健次:訳/草思社)は巨大事故の発生プロセスを分析し、人と科学技術との関係を問い直す1冊だ。

“リスク社会”という言葉を、一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。ドイツの社会学者ウルリッヒ・ベックが1980年代に示した概念である。

 科学技術が発展した現代社会では、事故のリスクがグローバル化している。たとえば飛行機1機の墜落事故が、さまざまな国籍のスタッフ・乗客を被害に巻き込む。工場1か所の事故によって、危険物質が広範囲に拡散するおそれがある。きっと誰しも、似たような事例を次々思い浮かべることができるだろう。グローバルで、ときに予期せぬ結果をもたらすリスクにあふれた社会――それがリスク社会だ。

 本書はリスク社会の象徴のひとつである、巨大で高エネルギーなマシンを題材にしている。ゆうに20を超える巨大事故の事例を読み解きながら、なぜ事故が起こったのか、そのとき人は何をしていたのかを丁寧に分析する。

われわれは凶暴化することもあるマシンにかこまれて暮らしているのだが、そうしたわれわれの新世界においては、いまや平凡なミスが莫大な被害を招きかねないことを認める必要があるし、その結果として、より高度の警戒が求められるばかりでなく、家庭や小企業のレベルまでもが高度の警戒をしなければいけないようになりつつあることを知る必要がある

 そう、巨大事故は決して他人事ではないのだ。たとえば著者は、飛行機事故の際乗客が陥りがちなパニック状態ととるべき対処方法を説明している。もし離陸前に火災が生じた場合、乗客は出口に殺到する。煙から身を守るため床にふせれば踏みつけられるし、ハンカチを取り出そうと身動きしようものなら他の乗客とぶつかりバランスを失ってしまう。かといって煙を吸い込むと、有毒物質によって身体に危険が及ぶ。さらに乗客は、最も近い非常口(しかも開いている)ではなく自分が搭乗したドアをひたすら目指す傾向があるのだというからゾッとする。

緊急時についての機内説明のあいだ、他の乗客は新聞を読んでいても、あなたはいちばん近い非常ドアまでのいすの背もたれの数を数えておこう。

 真っ黒な煙のなかでは、非常口が見えづらい。煙を避けてかがみこむこともできない。したがって背もたれを頼りに、迅速に非常口までたどりつくのが無事生還のカギなのだという。

 なぜ巨大事故が起こるのか。日々のニュースを聞くかぎり、巨大事故はとほうもなく複雑で大規模、わたしたちには手に負えないと感じてしまいがちだ。しかし著者が強調するのは、巨大事故につながるシステム障害がピークに達する前に、それを断ち切る機会は必ずといってよいほどあるということだ。しかしわたしたち人間がその機会に対して適切に認知・対処できないために、事故に至ってしまうのだという。

 たとえばチェルノブイリ原発事故では事故発生までに6つのミスが、それぞれ別の場面で生じていたことがわかっている。スペースシャトル・チャレンジャーの悲劇は、過密スケジュールのため、ジョイント部分に空気が入り込む不具合に適切な対処をしなかったことが大きな原因だったという。個々のミスにきちんと対処すれば、将来的には巨大事故予防も望めるのではないか、というのが著者の主張だ。

 最後に章のタイトルをいくつかピックアップしてみよう。本書で扱う巨大事故は多岐にわたるが、各章のタイトルが端的にストーリーをあらわしてくれている。

 たとえば第1章は、本書の出発点となる“信じがたいほどの不具合の連鎖”。第3章は“「早くしろ」という圧力に屈する”、その結果としての第4章“テストなしで本番にのぞむ”という恐ろしい事態。第5章はぜひ知っておきたい“最悪の事故から生還する能力“だ。第7章以降は、人の能力や判断について深く掘り下げられていく。たとえば“事故の徴候を感じとる能力”“危険にたいする健全な恐怖”“少しずつ安全マージンを削る人たち”など、どれも思わずギクリとしてしまうタイトルだろう。

 最終章は希望ある、“最悪の事故を食い止める人間”。本書は決して悲観的な立場ではない。ミスを適切に認識し、最後の最後まであきらめないことで、巨大マシンとの共生の道が開けるのだ。

文=市村しるこ