絶対負けられない戦いがマイクの前にもある! サッカー解説者たちは試合中何を見ている?

スポーツ

公開日:2017/10/14

『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(河治良幸/内外出版社)

 サッカー日本代表が6大会連続となるワールドカップ出場を決めた。2018年は再び日本中をサッカー熱が襲うだろう。そして、多くの人がロシアの地を踏む日本代表をテレビ画面越しに見守るのではないだろうか。スポーツは生で観戦してこそ魅力が分かるとはいわれる。しかし、現地に行くのが困難な以上、テレビ放映のメリットを十分に味わって、よりワールドカップを深く楽しみたいところである。

『解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る』(河治良幸/内外出版社)は「解説」という放送システムを分析していく一冊である。テレビ中継にはつきものの解説者の声に耳を澄ませば、従来のサッカーファンだけでなく新規ファンにもプレーの魅力がスムーズに伝わるだろう。

 日本のように、サッカー中継では必ず実況と解説者がタッグを組んでいるケースは、世界的に見て決して多くはない。サッカー強豪国でさえ、実況アナウンサーだけが放送席に座っている状況が普通なのである。

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 誰が解説を担当するのか、サッカー中継をチェックするファンたちは少なからず注目している。解説者によって着眼点が全く異なるからだ。たとえば、元五輪代表監督で、現在は松本山雅FCを率いている反町康治氏は、指導者経験を活かした解説を心がけている。サッカーの試合は90分間だが、選手や監督は1試合のために1週間・168時間をかけて準備してきている。指導者としても定評のある反町氏は、当日のチーム状態からトレーニングを想像し、戦術的な意図を視聴者に伝えてくれるのである。

 元日本代表ディフェンダーだった都並敏史氏の解説は、やはり守備戦術に重きを置いた観方となる。「ファーストディフェンダー」と呼ばれる、前線の守備を確認して戦術を把握し、最終ラインと中盤の距離が均等かどうかで安定性を見分けている。また、メッシのようなスーパースターがボールを持ったときは、むしろ他の選手のサポートや動き出しを見るように勧める。人気選手のプレーはスーパースローでリピートされる可能性が高い。それよりも、見逃されがちな黒子役の選手のプレーに注目すれば、よりサッカーの奥深さに触れられるだろう。

 スポーツジャーナリストの中西哲生氏は、「マジックワード」と自身が名付けた曖昧な定説を無視してサッカー観戦する重要性を説く。「2対0はひっくりかえされやすい」という定説に根拠はあるのか? また、サイドからゴール前に蹴ったボールは「クロス」なのか「パス」なのか? サッカーに対し、何気なく使ってきたコトバの意味を掘り下げていくと、先入観なしでサッカーが観られるようになるのではないだろうか。

 WOWOWでサッカー中継を担当している柄沢晃弘アナへのインタビューや、選手経験のないジャーナリスト解説者、後藤健生氏の心がけなど本書の見所は多い。しかし、ワールドカップを控える日本中の視聴者が特に興味を引かれるのは第2章、「サッカー中継・解説徹底比較!」ではないだろうか。アジア最終予選から、日本代表の1戦をピックアップし、同じシーンをNHK-BSと民放地上波でどのように中継していたのかを比べていく。ダジャレのインパクトが強い早野宏史(NHK-BS)の意外なクールさや、松木安太郎氏の「応援解説」が注目されがちな民放の「情報量」が明らかになって面白い。

 本書は「解説者のコトバを絶対的に信じたほうがいい」と誘導しているのではなく、思考しながらサッカーを観る手助けとして解説者のコトバがあるのだと教えている。そして、ワールドカップのような大舞台があるたび、視聴者の数だけ新しいコトバが生まれれば、日本サッカーはますます発展を遂げられるだろう。

文=石塚就一