“老害”予防は「すごいトシヨリ」から学べ! 理想的な加齢のための予習本

社会

2017/10/19

『すごいトシヨリBOOK』(池内紀/毎日新聞出版)

 “老害”という言葉がインターネット界隈に浸透し始めてから、もうどのくらい経つだろう。何とも切なく悲しい話である。しかし現に至る所で高齢者問題が噴出しているのもまた事実。そんな世知辛い構造になってしまった社会を明るい方向に導いてくれる打開策は果たして見つかるのだろうか。

 若者がどれだけ真剣に「理想的な老人のあり方」を考えたところで、想像が及ばぬ点が多すぎる。それでいて若い人も確実に老いていく。そんな矛盾を抱えた我々は人生の先輩に弟子入りして意見を聞いてみようではないか。『すごいトシヨリBOOK』(池内紀/毎日新聞出版)という本をご紹介したい。

■老化に対して無理な抵抗はしない

 皆が重たく考えがちな「老い」の問題をこれだけ軽やかに自身の経験を語る形で、私たちにヒントを与えてくれる本書はとてもありがたい。著者の池内紀さんは1940年生まれのドイツ文学者・エッセイスト。御年77のすごいトシヨリだ。そんな池内さんは現在のメディアが報じる「老人像」を鵜呑みにする社会に警鐘を鳴らす。「シニア元気集団」のような場所で“人生再生”“よみがえり”などの目標を掲げて元気な老人になれるようにと活動することは、結果的に歳を取っても群れてばかりで自立できない人を生み出しているだけなのだと。老化に抵抗するのではなく、老化を受け入れてうまく付き合うべきだと考える池内さんのトシヨリ生活を覗いていきたい。

■物がモノノケになる…「あれはどこに行ったんだ?」

 急に茶碗が手から落ちたり、物にぶつかったり…自分の動きと目の前にある物の配置のピントが合わずに、思ってもみないことが起こる。読みたい本を探していてもあると思っていた場所にない。そんな出来事に遭遇する機会は老いとともに増加する。

それは、老いがやらかしたこと、それはそうなんだけど、むしろ逆に、「周りの物が年寄りをからかって、いたずらをする」と、僕は考えています。手から急に物が落ちるのは、手の力が緩んだのではなく、物が反抗するからです。(中略)その本だけがないのは、本が年寄りをからかっているからです。(中略)そういう時の秘訣は、「まあ、いいや、勝手にせえ」って、諦めた振りをします。
(本書52頁より)

 物がモノノケになるのは老いの特性でもあるが、若い人にも時たま襲い掛かってくる出来事ではないだろうか。仕事で疲れ果てた夜に、マグカップと口との距離が合わずにコーヒーを衣服にぶちまけてしまったり、重要な書類がデスクから忽然と姿を消して焦ったり、そんなことは、多かれ少なかれ誰もが経験することだろう。しかしそういう事件が発生するとイライラが収まらなくなったり、過度に気分が沈んだりしてしまうものだ。そんな時はおじいちゃんの知恵を借りるような気持ちで、池内さんこと「すごいトシヨリ」のやり方を思い出してみるとよいだろう。「妖怪の仕業なのだ」そんな話、どこかにあったような!?

 『すごいトシヨリBOOK』は、ユーモアを交えながら「老いへの抵抗」ではなく「老いとの付き合い」を提示してくれる。自らの老いに不安を抱える人にとって、真に有益な指南書だと言えよう。また、老化によってもたらされる困難の一部は、実は若い人も時として経験している出来事で、それを経験する機会が単純に増加するのが老化であるという構造も本書を通して見えてくるのではないか。『すごいトシヨリBOOK』は、全ての人に対して人生の「やり方」のヒントを与えてくれる一冊なのだ。

 そうやって本書から学べるノウハウを深めると、最終的にお年寄りに対する理解も深めることができる。本書は全ての世代が分け隔てなく尊重し合える世の中を目指していくためのヒントとなるのかもしれない。

文=K(稲)