少子化の時代に絵本が売れている! 好調の原因は「楽しみを求めない絵本」にあり!?

出産・子育て

2017/10/20


 紙もの書籍の売上不振が指摘されて久しい。日販の『出版物販売額の実態2016』によれば、雑誌・文芸などの人気ジャンルでさえ、10年前に比べて30%前後の売上減が見られるという。ところが、絵本を含む児童書ジャンルだけは、約8%と微増ながら売上を伸ばしているのだ。

■絵本の好調な売上を支える環境要因

 なぜ、少子化の時代に絵本が売れているのだろう? 昔から、子どもの本にはある程度安定した需要があり、これが売上の下支えになっていることは確かだ。他にも、

● ブックスタート事業(※1)等の読書推進活動の拡大
● 孫へのお金を惜しまない富裕なシニア世代の増加

などが、売上好調の理由としてよく挙げられる。

 また、一般書籍が売上面で電子書籍の影響を受けているのに対し、絵本は鑑賞に堪える良質な電子書籍の作品が少なく、一般書籍ほどその影響を受けていないことも一因だろう。だが、そういった外部環境だけが売上増の理由とは思えない。そこで、次ではそのような環境要因をひとまず脇に置いて、「絵本を楽しむ人」という視点から好調の理由を考えてみたい。

※1 ブックスタート事業:2000年の子ども読書年を機に広がった読書推進事業の1つ。自治体等が、絵本を読む楽しい体験とともに、赤ちゃんに絵本を手渡す活動。

■絵本を楽しむには、それを読む人と聞く人が必要!?

 そもそも、絵本には「読み手」と「聞き手」の両者が必要だった。これは絵本だけが持つ特質で、一般書籍とは違う点である。そして、「読み手」も作品を楽しめるが、「聞き手」こそが最も絵本を楽しむ人であり、読み手は黒子として小さな読者の楽しみに寄り添うという姿勢が基本だった。

 ここに1つの変化が起こる。大人のための絵本の登場だ。大人向け絵本では、「読み手」と「聞き手」の区別がなくなり、一般書籍のように、自分で読み自分が楽しむ読者が増えてくる。これによって、大人向けマーケットが拡大した。

■「読者が楽しむこと」を求めない絵本が現れた!

 だが、「絵本を楽しむ人」という視点からは、近年さらに大きな変化が起こっている。それを知っていただくために、上述の絵本とは性格の違う絵本を2冊ご紹介しよう。

 1つは、『おやすみ、ロジャー』である。日本では2015年11月に刊行され、子どもが寝落ちする絵本としてSNSでも話題を集め、世界的ベストセラーとなった。

『おやすみ、ロジャー』(カール=ヨハン・エリーン:作 飛鳥新社)

 この絵本がヒットした理由は明快だ。宣伝文句にある通り、読めばたった10分で子どもが眠りにつくからである。だが、絵本がその効果を発揮すればするほど、小さな読者は絵本を楽しむことができなくなる。なぜなら、眠ってしまうのだから。子どもを早く寝かせたい親たちは、むしろ子どもが最後までお話を楽しまないことを願って本を読む。ここに絵本自身がパラドックスを抱えることになる。

 もう1つの作品は、数年前に話題となった絵本『地獄』である。描かれたその凄惨な地獄絵図から、恐怖のあまり泣く子も黙ると言われた作品を、ご記憶の方も多いだろう。

『地獄』(宮次男:監修 風涛社)

 本来は、若者に自死を踏みとどまらせるために作られた絵本だが、子育て中の大人たちがしつけに役立つ(地獄への恐怖から親の言うことを聞くようになる)として、利用したのだ。そしてその効果の高さゆえに、これまた売切れ続出のヒットとなった。

 2冊の絵本に共通するのは、読み手の利益が優先され、実際の読み聞かせの場で絵本が楽しまれることがないということだ。これらの絵本では、聞き手の楽しみという利益は完全に無視されている。もちろん、これまでも「しつけ絵本」のように、なんらかの効果を求めて絵本を読むことはあった。だが、それはあくまでも読み手が絵本を利用しただけで、聞き手の子どもたちは、絵本を楽しんでいたのである。

■楽しむことを求めない絵本が新たなマーケットを創る

 絵本の楽しみが全く考慮されず、読み手の意向が優先される絵本の登場が、新しい絵本マーケットを作り出している可能性がある。育児のための便利なお助けグッズを求める人の潜在的な需要が、絵本市場にまで反映され始めたとも言える。もちろん、こういった絵本をきっかけに、本来の絵本の楽しみに気づいた人もいるだろうし、逆に第2、第3の『おやすみ、ロジャー』や『地獄』を待ち望んでいる人もいることだろう。いずれにしても、これらの絵本が売上に影響を与えていることは否定できない。

 「絵本を楽しむ人」が変化し、あるいは読み聞かせの場から追い出されて、絵本の本質まで変化しかねない現状がある。その中で、これまでとは違う役割を求められた絵本が、それに応えることで新たなマーケットが創出されていく。その様子を見れば、絵本の売上増の一因として、「絵本を楽しむ人」の変化を挙げたとしても、あながち間違いとは言えないだろう。

文=citrus 児童書専門店「おひさま堂」創業 大橋悦子