「乳ガン宣告されても、2%はワクワクしている」これまでにない! プロジェクト報告書みたいな闘病記

健康

公開日:2017/10/22

『我がおっぱいに未練なし』(川崎貴子/大和書房)

 現代の日本では、生涯のうちに乳ガンになる女性の割合は12人に一人と言われ、年間6万人以上が乳ガンと診断されるという。小林麻央さんの闘病も記憶に新しい。乳ガンはもはや、不運な一部の女性がなるものではなく、想像以上に身近なものになっているのだ。とはいえ、実際に乳ガン宣告をされた時、私たちはその事実をすぐに受け止められるだろうか?

『我がおっぱいに未練なし』(川崎貴子/大和書房) は、乳ガンを宣告された著者の闘病記だ。闘病記というと多少なりとも重苦しいものを想像するが、タイトルからもうかがえる通り、本書の内容にネガティブ要素は一切なく、治療に向かう姿勢も気持ちがいいほど潔い。著者はガン告知された当日から、「乳ガンプロジェクト」と命名し、ガンを迎え撃つ覚悟を決めたというから驚きだ。自分の経験を無駄にせず、いずれ誰かの役に立てばという思いで闘病の過程を記すことにしたという。

 現役の社長であり、女性のキャリア支援をしてきた経歴から「女のプロ」と呼ばれる著者。乳ガンの告知を受けた時、女性がまずぶつかる壁である「温存」か「全摘」か、という大きな決断にも一ミリの迷いもない。仕事に影響が出そうという理由からなるべく抗ガン剤治療は避けたかったとのことで、「抗ガン剤治療なし」で「切って済む」のであればおっぱいには未練なし。「全摘ってことで!」と手術方針はあっさり決まる。

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 他にも、ガンになっても2%はワクワクしていたり(自分がこの経験を経てどう変化するのか楽しみだから)、乳ガンになってまとまった額の保険が下りたことを「ギャンブルに勝ってしまったようなこの爽快感」と表現したり、ホルモン治療の後は「生理がないってむしろラッキー?」と評したりと、本書には著者の潔さを表すエピソードが満載だ。

 著者はもともと強い人で、成功者だから乳ガンという過酷な現実を受け入れられるのであって、自分にはとても無理、と思うなかれ。乳ガン罹患以前にも著者の人生には、娘を抱えての離婚や経営する会社の危機、流産や元夫の突然死(これらの一連の不幸は本書の中で「アラサー暗黒時代」と評されている)など、様々なピンチがあった。そのたびに、彼女は悩み、涙を流し、乗り越えてきた。本書を読めば、著者が強く見えるのは自分の人生をまるごと受け入れ、愛しているからだということがわかるだろう。

「本物の右おっぱいはなくなったけれど、今生きていることに比べたらそれはなんて些細なことであろうか。生きていれば『取り返しのつかないこと』なんてないのだ。おっぱいだってつくれるし、何より家族への接し方や働き方、人の愛し方すらも、この有限な人生期間においていくらでも進化できるはずだと思う」

 基本的にガンは、治療を終えて5年経過しても再発しなければ完治した、と見なされるため、著者の乳ガンとの戦いはまだ続く。それでも彼女は、ガンに罹患したことで大切なことに気づき、生きる希望を見出したのだ。

 自分自身や身近な人がいつ罹患してもおかしくない、乳ガンという病気。これから本書を手に取る人は、けして他人事ではないという事実をまず感じてほしい。そして、もし自分が乳ガン宣告を受けたとしたら、落ち込み、嘆き悲しんだ後に大切な人やもののために何ができるかを想像してみてほしい。「女のプロ」のプロジェクト報告書兼闘病記から、きっと学ぶことがあるはずだ。

文=佐藤結衣