「気持ちよく働いてもらおうと思う必要なんてない」―サイバーエージェント「最強のNo.2」が教える、組織で働くリアル

ビジネス

更新日:2017/11/20

『組織の毒薬 サイバーエージェント副社長の社員にあてたコラム (NewsPicks Book)』(日高裕介/幻冬舎)

 『組織の毒薬 サイバーエージェント副社長の社員にあてたコラム (NewsPicks Book)』(日高裕介/幻冬舎)は、「アメブロ」でおなじみサイバーエージェントの副社長である著者が、ゲーム事業部向けの社内報に書いたコラムをまとめたものだ。

 書籍化の依頼を受けた時、著者の日高裕介さんは「どうやって丁重にお断りしよう」と考えたとか。社員に向けたコラムなので「内輪ウケの内容だし、社外の人が見ても面白くないだろう」という懸念があったそう。

 しかし、「社内向け」だからこそ、本書は「組織で働く会社員に向けたビジネス書」の中で、異彩を放っているように感じた。とにかく「リアル」なのだ。日高さんは執筆業で収入を得ているわけではないので「本が売れるように、世の中にウケる内容にしよう!」とか、そういう考えはもちろんない。

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 つまり、通常のビジネス書なら多少はあるだろう、読者を「お客様」として、悪い言い方をすれば「おもねる」ところが一切ないのである。読むのは「本を買ってくれたお客様」ではなく、同じ会社の「仲間」。遠慮もおべっかも必要ない。そういったスタンスで書かれた「組織で働くとは?」というビジネス書だからこそ、「リアル」だと感じた。

 耳が痛いコラムもあったり、やや厳しい面もあったりする。脚注はあるものの、内輪の用語も多少は出てくるので、やや読みづらさを感じる点もなくはなかったが、それもまた企業の「リアル」を感じられ、本書の価値を一層高めているのではないだろうか。

「組織で働くことはストレスフルでめんどくさい」というのが、まず本書の大前提。

 しかし、「ひとりではできない大きなことを組織で成し遂げることは仕事の尊さのひとつ」。そのために、日高さんの思う心構えや考え方を知ることで、「組織で働くことに対しての見方がポジティブに変わるきっかけになったり、リーダー、メンバーどの立場からでも、組織に対して自分から一歩前に踏み出すことに少しでもお役に立てれば嬉しい」とのこと。

 例えば、部下(後輩)に仕事を頼む時「どうやったら気持ちよく働いてもらえるか」と悩む人へ。「気持ちよく働いてもらおうと思う必要なんてない」。組織はゴールを達成するために集まっている集団なので、そのゴールを共有し、みんなでがんばることが、イコール「気持ちよく働くこと」なのだ。

「気持ちよく働いてもらわなきゃ」と考えるより、社員全員が同じゴールを目指し、それを実現するために働いているという共通認識を持たせる方が大切であり、チームの雰囲気ばかりに気を遣うのは、本質からズレてしまっているという。

 また、新入社員に向けては、「恐縮は無駄」と述べている。新人に仕事の力がないのは当たり前で、それを覆い隠そうとして、やりたいことをやらなかったり、聞きたいことも聞けなかったりといった「恐縮」は不要なのだ。新入社員が抱える様々な不安は「一日も早く成果を出せる自分になること」でしか解消しない。そのためにも、日々の仕事に没頭し「恐縮している暇なんてない」方がいいのである。

 その他、「苦手な人との仕事の仕方について」「組織の犯人探しは意味がない」といった現実的なトラブルに対するアドバイスや「気合いと思考停止は紙一重」「BBQのススメ」「暑い夏とテンションが低い時をどう乗り切るか」など、切り口の面白いコラムもある。

「仕事は楽しいもの」とか「誰しも快適に働く権利がある」とか、そういう耳当たりのいい言葉は出てこない。しかし、組織で働く「リアル」が書かれているからこそ、現実を受け止め、そしてポジティブに考えていくための「秘訣」が詰まっているのである。

文=雨野裾