成熟した大人になるための指南書! 心から満足した人生を送るために必要なこと
更新日:2017/11/20
この人生に満足しているかと問われたなら、どう答えるだろうか。多少のトラブルはあっても特に大きな問題はなく、毎日が平穏無事に過ぎていく。常に楽しいというわけではないけれど、たまによいことは起こるし、ご褒美と称して月に幾度かは自分を楽しませることもできる。こういうのを幸せというのかもしれないが、ふと、はたしてこれでよいのだろうかと、いいようのない気持ちがわいてくる。そんな経験はないだろうか。
『「本当の大人」になるための心理学 心理療法家が説く心の成熟』(諸富祥彦/集英社)は、そんな気持ちに応えてくれる本だ。本書が対象としている「大人」とは、40代以降の人たちを指す。今は大人が大人になるのがとても難しい時代。なぜなら、「いつまでも若々しくあること」「元気に活動すること」といった外的な価値ばかりが重視され、内面的な成長・成熟が軽視されているからだ。当の本人たちですら、できる限り若い時の生き方をそのまま継続するのがよい、と考えがちだ。
いつまでも若々しく元気であること、それはそれで重要だが、「若さ」「元気」や「活躍」ばかりだと、そばにいてむなしい感じがしてくる、と著者はいう。それは、若くあろうとばかりして、内面的に成熟することを拒否しているからだ、というのである。
心理療法家のユングによれば、人間は、中年期-今の日本で言えば40代前半あたり-に「人生の正午」を迎え、それ以降は「人生の午後」を生きることになるとし、それまでの外的な活動性を中心とした生き方から、内面性に軸を置いた生き方へと「生き方の転換」を図らなくてはならないと説いた。
自分が生まれてきた意味は何だろうか」と人生の意味を問うたり、「私はこのままの生き方をしていて本当にいいのだろうか」と自分の内側に向かって問い確かめたり、「私は人生で果たすべきことを果たしつつ、日々を生きることができているのだろうか」と自分の人生に与えられた使命や役割を確かめ始めたりするのが「人生の午後」なのだ。
それはちょうど、上昇していた太陽が正午を過ぎて下降に向かう様に似ている。「この時においてこそ、人間は下降を通じて上昇するという逆説を体験できる」とユングはいっており、この「下降を通じて上昇する」ことが中高年における「人格の成熟」ということなのである。
若さを保ち続けることばかりに価値観を置いて何も変えずに生きていると、「下降に向かう準備作業」ができなくなる。趣味も嗜好も若い頃と同じまま。そうして還暦を過ぎれば、いかに成功していたとしても、喪失感や虚無感にさいなまれ始めてしまう。
では、「人格の成熟」はどうやってなし得るのか。その方法や論証については本書を参照していただきたいが、自己の内面と向き合うこと、諦めも含めて現実を受け入れること、人生を本気で生きること、などである。
他人の評価がどうであろうと、自身が満足していなければむなしさは消し去れない。人生への向き合い方が変化する「人生の午後」においてこそ、心の深淵に触れるアプローチが必要なのではないか。
最近人生についてモヤモヤしてしまうという人や、世間の風潮になんとなく違和感がある人、若い頃と同じようにはいかないのに働き方が変えられない人などに、おすすめの一冊である。
文=高橋輝実
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