冷めきった夫婦関係。“妻を殺してもバレない確率”を毎日調べる夫――未来に起こることの確率が調べられるとしたら、あなたは何の確率を調べますか?

文芸・カルチャー

2017/11/2

『妻を殺してもバレない確率』(桜川ヒロ/宝島社)

 物騒なタイトルから、ドロドロミステリーものかと思いながら読んだ『妻を殺してもバレない確率』(桜川ヒロ/宝島社)。第5回ネット小説大賞グランプリを受賞した本作は、いい意味でタイトルの期待を裏切る、感涙とハートウォーミングな短編小説集である。

【未来予測システム】は、ビッグデータやSNSまた自身のバイタルなどを組み合わせて、その人独自の未来予測を算出するシステムだ。この発明により、ある程度、未来に起こる出来事が「確率」で分かるようになり、それが世の中に普及した日本が本作の舞台である。

 あるサラリーマンは「妻を殺してもバレない確率」を調べていた。祖父の会社を助けるため、「僕」は望まない結婚を強いられる。とある社長の娘と政略結婚をさせられ、端からみたら「逆玉の輿」かもしれないが、義父の会社での仕事は、義父の言いなりになる傀儡のような役目だった。真面目でごく平凡なサラリーマンだった「僕」は、今までの努力を踏みにじられ、金で買われたことを苦々しく感じている。

 そんな「僕」は、数多くいた「傀儡候補」の中から自分を選んだ妻を、少なからず憎んでいた。さらに、妻が死ねば、彼女が手にする莫大な遺産を独り占めできる。そこで、「妻を殺してもバレない確率」を【未来予測システム】によって日々、調べているのである。

 当然、確率は限りなく低い。もちろん、「僕」は本気というわけではなかった。妻自身も、「僕」がそれを毎日調べていることを知っている。「僕」が彼女に「今日の確率」を告げるからだ。それでも「僕」を愛する彼女は不敵に笑って「もし殺されたら、それは私の努力が足りなかったせいだわ」と答える。

 こうした二人の、ちょっと変わった夫婦関係は、数年続いた。しかしある時、「僕」の【未来予測システム】の「妻を殺してもバレない確率」が急激に上昇し始める。驚いた「僕」は、すぐに妻のもとへ走るが……。

 本作はタイトルの「不穏感」とは比べものにならないくらい、ハートフルで愛情深い夫婦の物語である。憎んでいたはずの妻が、かけがえのない存在だと気づいた時には、もう遅い。「僕」と妻の関係は取り返しのつかない状況になってしまう。しかし、自分の過ちを認め、妻と向き合い続けたことが、感動のラストにつながっている。深い愛の絆を感じることができた短編小説だった。

 本作はオムニバス形式なので、他にも、人生に絶望している女子中学生の「明日、世界が終わる確率」や、学校をサボるようになった娘を心配する父親の「娘に彼氏ができる確率」、初恋の人が忘れられないアラサー女性が婚活をする「私が一生独身の確率」など、様々な登場人物が「確率」から巻き起こる出来事に、励まされ、叱咤され、希望を持つお話が詰まっている。

 どれも全く別のお話で、一話完結しているのだが、広島を舞台にしているところは同じ。さらに、異なった短編の登場人物たちが、微妙にリンクしている箇所もあり、読者を喜ばせる。読みやすくほっこり感動する短編集であった。

文=雨野裾