「高齢童貞」に「高齢処女」…結婚の考え方やあり方が変わる中で置き去りにされる大人の性教育

社会

公開日:2017/11/4

『誰も教えてくれない 大人の性の作法』(坂爪真吾、藤見里紗/光文社)

“性”そして“セックス”という言葉に、あなたはどのような反応を示すだろうか。中には言葉だけで赤面してしまう人もいるだろう。「そんなことを書くなんてとんでもない!」と怒りをあらわにするお堅い人もいるかもしれない。性は誰にでも関係のある問題である。性別による身体の問題は何かしらあるし、中には「自分は人とは違うのではないか?」と悩んでいる人もいるだろう。しかし、実際にはあまり語られることはない。少なくとも悩みの解決につながるような機会というのは、極めて少ないのではないだろうか。

 セックスについては相手があって成り立つものだが、パートナーが抱えているセックスの悩みや問題に向き合う人は少ないといわれている。そして気になるのは、“晩婚化”による“高齢童貞”や“高齢処女”が抱える悩みだ。特に日本においては性やセックスについて考えるのはどこか罪悪なイメージがある。世代差はあるが、セックスについて表立って語ることは下劣だという印象を持つ人も多い。

『誰も教えてくれない 大人の性の作法』(坂爪真吾、藤見里紗/光文社)は、男性サイド、女性サイドに分かれてそれぞれの性が遭遇しやすい悩みについて書かれている。男性サイドを担当する坂爪真吾氏は「一般社団法人ホワイトハンズ」の代表理事だ。ホワイトハンズとは障害者の性の悩みや問題に取り組んでいることで知られる。介護の場でも性の問題は置き去りにされがちだが、そこに福祉という形で風穴を開けたのがホワイトハンズなのである。

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 そんな坂爪氏は現代の男性が抱える性の悩みに対して“未婚×非正規” “未婚×正規”、そして“既婚×非正規”と“既婚×正規”の4つに分類して解説しており、これが非常に分かりやすい。この4つに分類するには意味がある。現代の性の悩みは経済状況に関連して起こりやすいからだ。実際に恋愛や結婚を諦めた男性の多くは“非正規雇用者”であることが多いという。既婚者であっても、妻より収入が劣ることによる自信喪失がセックスレスにつながるという解説は納得できる。もちろん、“未婚”である理由のすべてが非正規雇用というわけではない。経済事情に関係なく“未婚”を好んで選択している人もいるのだ。そしてこれは女性にも言えることで、自分の意思で“未婚”を選び、性に対しても不便を感じていない人は本書を読む必要はないだろう。本書は好んで未婚を選択する人に、決して異性を無理に受け入れることをすすめるものではないからだ。

 本書を読んで個人的に唯一違和感を抱くのは、女性サイドの内容が既婚者を対象にしたものに寄っていることだろう。特に経産婦の性の問題に特筆している印象は強い。これは、女性サイドを担当する藤見里紗氏が産後セルフケアのインストラクターとして活動しているせいかもしれない。しかし、夫婦間ですら話す機会は稀であろう出産後の女性の身体の事情について、詳細に状況が書かれている点は感心する。

産後の女性の体の、胸や性器といった、いわゆる性感帯の部分は、本当に傷だらけの状態です。

 夫婦間のセックスの悩みの解決策を見出したい人にとって、内容の多くは目から鱗ではないだろうか。妊娠中はセックスできないことに納得できる男性でも、産後に自分を受け入れない妻に不信感を持つこともあるかもしれない。しかし、適切なプロセスを踏んでいけば再び夫を受け入れる余裕や愛情が戻ることも本書では書いている。これから出産を控えた夫婦や、出産後のセックスにズレが生じている夫婦は参考になる内容がかなり盛り込まれていると思う。

本書を通して全体的に感じるのは、現代の日本が抱える問題が性に反映されているということだ。女性サイドの悩みは男性に比べて実はもっと深いのではないだろうか。未婚か既婚か、またはセックスのパートナーを持つかという選択以外に産むかどうかの選択もあるからだ。産んだ女性と産まなかった女性でも違いは大きい。既婚や未婚に囚われず、自分の性欲について考えたい、異性との悩みに現実的に向き合いたい人に読んでほしい本である。

文=いしい