「盛りもしないで 武装もしないで どうして平気でいられるの」女性と服のリアルを描く衝撃作

マンガ

更新日:2017/11/20

『あたらしいひふ』(祥伝社)

 女性にとって「服」とは、自己表現の役割を果たす大切な手段である。服やメイクで周囲からどのような人間に見られたいのかある程度コントロールできるし、お気に入りのファッションに身を包むことで、自信を持つこともできる。

 ただ、ファッションに悩みはつきもの。自分の好きな服を堂々と着こなせるようになるまでは、人それぞれのドラマがあると思うのだ。

 高野雀の『あたらしいひふ』(祥伝社)は、4人の女性と服のリアルな関係を描いた表題作をはじめ、大幅な加筆修正を加えた商業誌未発表の同人誌時代の作品・3編が収録されたマンガである。

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 中でも、デビュー単行本『さよならガールフレンド』(祥伝社)発売に先駆け、特設サイトで公開され話題となり、今回待望の単行本化となった表題作「あたらしいひふ」は特に印象深い。

「あたらしいひふ」に登場するのは、同じ会社に勤務する女性4人。

 受付・デザイン部・システム部と勤務する課は異なるものの、それぞれ全く違う系統の服を着る4人は、お互いの格好にこっそり疑問や憧れを抱いている。

 例えば、システム部で働くショートカットのメガネで、地味系の高橋は、いつも黒い服を着てオシャレに縁のない日々を送っている。しかしある朝、モードな服を颯爽と着こなし、背筋を伸ばして堂々と歩くデザイン部の渡辺とすれ違い、憧れを抱くようになる。

 そんな渡辺のことは、受付で働く鈴木も羨望の眼差しで見つめていた。

 彼女は昔から、無難な服ばかりを選び、今もなお、淡い色のセットアップニットトップスに肌色のストッキングというコンサバな格好をしているのだが、目立たないのが悩みで、何より、色々な服に挑戦したいけれど、誰かに笑われることを恐れていた。

 格好良く服を着こなす渡辺も実は、一重まぶたや張っている肩、ごつごつした脚をコンプレックスに思っている。そのため「せめて自分が素敵に見える服を」着ることを心がけているので、無難な服を着る受付の鈴木の気持ちが、内心さっぱり理解できないでいる。

 そんなある日、受付に、システム部でバイトをするギャルの田中がやって来る。

 ヘソ出しトップスに奇抜なネイル、派手な髪色をした田中のことを、鈴木はまたもやうらやましく思うのだが、田中は、周りから怪訝な目で見られようとも、特別な美人ではない自分は「かわいいで武装するしかない」と認識していた。そしてその武装は、自分自身の気持ちを強くしてくれるものでもあったのだ……!

 それゆえ、ギャルの田中は、同じシステム部で働く、黒い服を着た地味な高橋のことが気になってしょうがない。

「盛りもしないで 武装もしないで どうして平気でいられるの」

 そんな疑問を、ある日思わず高橋にぶつけてしまった田中だが、意外な返答に拍子抜けすると同時に、ある提案をするのだが――!?

 私は、同じ女性で同じ会社で働いていても、服に対する価値観が、4人とも大きく異なっていることに驚いた。「かわいい」の基準は人それぞれ違うのだ。年齢によっても異なるし、男女差だってもちろんある。ある人から見てかわいくても、他の人から見るとそうでもないということは、きっと日常茶飯事なのだろう。

 その中で、自分が心から納得できる服を着て、颯爽と歩けるようになるためには、数々の失敗や悔しい思い、度胸が必要なのかもしれないと感じた。

 本書は他にもコンプレックスを抱えた6人の学生が登場する「It’s your (new) ID.」や、お互いに嫉妬や羨望を抱えた三十路男子の物語「Recycled Youth」、自分の手首を傷つけてしまう会社員が新たな希望を見つけるまでが描かれた「妄殺ソングブック」が収録されている。

 どれもみな、心地良いテンポで物語が展開され、塞いだ心に風穴を開けるようなラストに思わずうっとりしてしまう。解決の糸口は、きっと意外な場所に隠れている。明日も頑張ろうと背中を押してくれるマンガである。

文=さゆ