売れない時代を支えた妻を捨てた理由は…『ミュージシャンはなぜ糟糠の妻を捨てるのか』

エンタメ

2017/11/7

『ミュージシャンはなぜ糟糠の妻を捨てるのか』(細田昌志/イースト・プレス)

「糟糠(そうこう)の妻」

 という言葉を、一度ぐらいは耳にしたことがあるのではないだろうか。

 糟は酒かす、糠はぬかを意味していることから、貧しい時代の粗末な食事を共にしてきた妻という意味がある。では「トロフィーワイフ」という言葉はご存じだろうか。これはトロフィーのように見せびらかしたくなる、自分より若く美しい妻のことを指す。ドナルド・トランプの3番目の妻で元モデルのメラニア・トランプを想像すれば、容易に理解できるだろう。

 ではその糟糠の妻を捨てて別の女性を選ぶ男を、あなたはどう思うだろうか?

『ミュージシャンはなぜ糟糠の妻を捨てるのか』(イースト・プレス)は、GLAYのTERU、Mr.Childrenの桜井和寿、布袋寅泰、小室哲哉、そして矢沢永吉という5人の糟糠の妻を捨てた超有名ミュージシャンの「その理由」を、著者の細田昌志さんが分析する内容になっている。

 売れていない時代を必死に支えてくれた健気な妻を、男は有名になるとなぜ捨てるのか。地味な一般女性ではなく、トロフィーワイフが欲しくなったのだろうか? そう思いつつページをめくると、それこそ五人五様の違った理由があり、細田さんが指摘する通り、

「糟糠の妻を捨てたミュージシャンのすべてがすべて、同じ理由ではない」

 ということがわかる。

 インディーズ時代からのファンだった妻と別れ、PUFFYの大貫亜美と再婚したTERUは結婚に際し「音楽を愛し、この世界で頑張ってきた2人なので、これからもお互いに刺激し合いながら、音楽の道を歩んでいきたいと思います」とメッセージを発表している。

 要するに彼は、同じ世界に住む相手を選んだのだ。マネージャーの背任行為に苦しんだ矢沢永吉は、仕事を家庭に持ち込んでほしくない前妻には心情を吐露できなかった。だからそんな彼を支えた、新たな「糟糠の妻」を選んでいる。彼らは決してトロフィーワイフを欲して別の女性に走ったのではない。自分自身が過去とは違ってしまったゆえに、過去の結婚から卒業せざるを得なくなったのだ。

 そんな彼らに対して世の中は、総じて冷ややかだ。また糟糠の妻を捨てた男性以上に、略奪した側に向けられる目はさらに厳しい。なかでも布袋寅泰は山下久美子と別れて今井美樹と再婚したことから、某匿名掲示板では再婚して20年近く経つ今でも「久美ちゃんかわいそう」「今井美樹ひどい!」といったバッシングが続いているほどだ。しかし意外にも、別れは山下久美子のほうから切り出していた。もちろん彼女は、今井と布袋がただならぬ関係になっていたことは察していた。とはいえ山下久美子から言い出さなければ、離婚しなかった可能性は高いのではないかと細田さんは見ている。繰り返すが彼らは華やかな世界で舞い上がり、トロフィーワイフを欲して残酷に捨てたわけではないのだ。

 同書は巻末に、細田さんと精神科医の香山リカさんの対談を掲載している。その中で2人は、浮気でとどめて2人の女性を苦しめるよりも離婚したミュージシャンたちを「ある意味、潔い」と評している。さらに

「みんな学生の時は一年おきぐらいに恋愛対象が変わるのに、なぜ結婚した瞬間から50年も一人の人を愛し続けられるのか、むしろそっちのほうが不思議です」(香山さん)

 と、人が心変わりすることを寛容に受け止めている。そして同時に捨てられた側の妻が人生をもう一度やり直せるような、恋愛や結婚もやり直しが可能な社会的状況の必要性を訴えている。

 残念ながら愛は永遠ではない。そして別れる理由も一人ひとり違う。だから糟糠の妻を捨てたとて、第三者から非難されるいわれはない。むしろ離婚後に再チャレンジできない社会の空気に問題があるのではないかと、深く考えさせられた。

 同書は一冊を通して、週刊誌やミュージシャン本人の著書、第三者による人物研究などからの引用を用いた形での推論が続いている。その視点には説得力があるものの、登場する全員が現役だ。だから答えてもらえなかったとしても、1人ぐらい直接取材をしてほしかったと望むのは、ムチャぶりな要求だろうか?

 もし同テーマでの次作を考えているとしたら、その時はぜひ直撃して「この本の答え合わせ」をしてほしいと切に願う。

文=霧隠 彩子