元Dream5の重本ことり。自伝で明かした幼少期とブームの裏にあった苦悩

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公開日:2017/11/8

『黒い小鳥』(重本ことり/鉄人社)

 光があれば陰がある。芸能界という一見華やかな世界であっても、それはおそらく同じことなのだろう。人気アニメ『妖怪ウォッチ』の主題歌などで知られるDream5の元メンバー・重本ことりの自伝『黒い小鳥』(鉄人社)は、それを感じさせてくれる一冊だ。

 本書で描かれるのは、芸能界に憧れてオーディションに合格。やがてグループとして紅白出場を果たしたものの、葛藤を抱えながら一人で歩み始めることを決意した少女の記憶と記録である。

◎順風満帆ではない両親との関係。しかし、父親が泣いた

 徳島県の田舎町で育った重本は、9歳で芸能界デビューを果たした。広告関係の仕事をする父親と、看護師と水商売を兼業していた母親に育てられた少女は、幼い頃にダンスをする自分を見て祖父母と両親が笑ってくれたことが「見られたい」という欲求に繋がったようだと振り返る。

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 しかし、はたから見ると、両親との関係は順風満帆ではなかった。両親の印象を「夫婦というよりカップルですから」と伝える重本。父親は母親をひいきするがあまり、時には娘に対して「メイクしろ。ブスなんだから。小学生の時はめっちゃ可愛かったのになぁ」と言葉をかけた瞬間もあり、泣きながら部屋でお菓子を食べていたこともあったという。

 ただ、そんな父親が彼女のために泣いた瞬間が2度あった。初めは、重本が大手レコード会社のオーディションで1次審査に合格したとき。そして、娘が15歳での上京を決断したときだった。

 一人暮らしをすると告げたとき、父親は「こんなに大きくなって」とつぶやいたそうだ。一見するといびつな関係だが、彼女はのちに「私は私の両親でよかった」と振り返っている。

◎『天才てれびくんMAX』『妖怪ウォッチ』の裏にあった苦境

 彼女の初めの転機は小学6年生~中学1年生の頃、NHKの子供向け番組『天才てれびくんMAX』への出演だった。「いつも明るく、ポジティブ。何があってもクヨクヨしない」というファンからのイメージがあった当時、その裏では、通っている小学校でいじめに遭っていたそうだ。

 学校内では「番組に出ている」という話が広まり始めた頃、地方在住で飛行機に乗り収録へ向かう日々を過ごしていたと振り返る重本。しかし、その当時は廊下を通りかかると「キモイ、ハゲ、臭い!」と罵声を浴びせられ、靴に落書きをされる。時には、髪にガムテープを貼られ思いっきり剥がされるといった仕打ちを受け、心の中では「いじめを受けている自分が悲しくて、毎日学校に行くのが嫌でした」と感じていたという。

 そして、2度目の転機となったのは17歳の頃だった。すでにDream5のリーダーとして活躍していた中で、つかんだのは人気アニメ『妖怪ウォッチ』の主題歌「ようかい体操第一」を担当するというビッグチャンス。2014年の大晦日には『NHK紅白歌合戦』への出場も果たしたが、重本は「不思議と充実感はありませんでした」と振り返る。

 当時の『妖怪ウォッチ』ブームは記憶に新しく、彼女自身も「ブレイクしているな」と実感があった。しかし、イベントのチラシで中心になるのは作品のキャラクターで、その下に「Dream5」というグループ名と写真が掲載されているのみ。『NHK紅白歌合戦』でもキャラクターや楽曲ばかりが注目されている空気を感じ取りつつ、舞台に上がる前には「これが終わったら私たちはどうしていけば良いのだろう」とある種の恐怖心をおぼえていたという。

 やがて、紅白出場から2年後の2016年末をもって、Dream5は活動を終了した。それと同時に、重本は所属事務所からの独立を果たした。

 現在の気持ちを赤裸々に綴る彼女は、その後から現在までの約10ヶ月間を振り返り「苦しいことをたくさん経験してきました」と記している。その一つとして、以前とは異なりどんどん人が離れていったと伝えるが、その一方で、ファンだけは「『どんなことがあっても応援してるよ』って、いつでも言ってくれた」と感謝を述べている。

 臆することなく素直な気持ちを吐露している重本ことりの自伝本。両親や仕事について振り返る一方で、芸能界で生きる“プロ”としての思いからつむぎ出される彼女の言葉の一つひとつは、華やかに見える芸能人が“一人の人間”であることを気づかせてくれる。

文=カネコシュウヘイ