はやくも10万部突破! SEKAI NO OWARI・Saoriの小説『ふたご』は、どこまでがフィクション? 繊細すぎて生き辛い少年と彼に救われて音楽を見つけた少女の物語

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2017/11/7

『ふたご』(藤崎彩織/文藝春秋)

 「お前の居場所は、俺が作るから」。小説『ふたご』(文藝春秋)の主人公・夏子を、生涯支えることになったこの言葉。くれたのは、中学2年のときに出会った“寒空の下にいる動物みたいな目”をした1つ上の先輩・月島だ。これは、著者・藤崎彩織――4人組バンドSEKAI NO OWARIのピアニスト・Saoriさんが、バンドメンバーのFukaseから実際にもらった言葉でもある。「私自身の人生だったり、私たちのバンドのストーリーをベースにしたお話にしたらいいんじゃないかな、って深瀬と相談して『序章』を書き始めたのが2012年の夏でした」と『ダ・ヴィンチ』本誌で著者が語るとおり、本作はSEKAI NO OWARIファンにはたまらない小説なのである。

 月島という少年は、父親に「お前多感すぎて生き辛くないか」と聞かれるほど繊細な少年。がんばる、ということの意味を見出せなくて、みんながあたりまえのように過ごしている学校生活になじむことができない。そんな月島にとって特別な存在であり、ときに「恋人」と紹介されることに夏子は喜ぶのだが、月島にとって恋人の定義は夏子の望むものとはちがうこともわかっている。月島にとって夏子は、友達であり、家族であり、恋人であり、そして“ふたご”のような大切な存在。どんな女の子を好きになっても、夏子のそばにいて語りあうのが落ち着くと言ってくれる。けれど夏子には、彼を束縛する権利もなければ、嫉妬をみせることさえできないのだ。

 彼は知っているのだろうか。かつて私が彼とふたごになりたくて、どれほど苦しかったのかを。ふたごになんかなりたくないと、どれだけ一人で泣いた夜があったのかを。

 月島ほど不安定ではないものの、幼いころから女の子同士の社会のなかでうまく立ち回ることのできなかった夏子もまた、どこにも自分の居場所が見つけられないさみしさを抱え続けていた。みんなはできていることが、どうしてだか同じようにはできない。似たジレンマをもつ2人が惹かれあったのは必然であり、互いが互いの居場所である限り、離れることもないように思えるのだが、恋と友情の狭間で揺れ動く、というよりも、心が近すぎて関係を定義できない2人はわかりやすく彼氏彼女の関係になることもできない。そもそも月島をつないでおける鎖は世界のどこにもないのだから、いつふわりとどこかへ消えてしまうかわからない。2人の関係にいちはやく自覚的になった夏子は、月島がいなくても大丈夫なように、適切な距離感で彼と支えあえるように奮い立つも、無自覚な月島は感性がおもむくままに夏子をふりまわして、決意を簡単に打ち砕いてしまう。そしてやがて月島の提案で、夏子は彼の結成したバンドに加わることになるのだが――。

 ……いったいどこまでが実体験で、どこからがフィクションなのか。その境界線を言明しないのは、「なるべくどこがどうとは言わないほうが、みんなの心に届くんじゃないかなって思う」から。

 小説を読むのが好きで、ふとした一文に救われた経験を重ねてきたという藤崎さんが、深瀬さんにすすめられて書き始めた初めての小説。最初は好奇心でも野次馬心でもいい。だが読み始めてみれば、その繊細な感情ときらめく言葉の数々に、きっと読者も、自分を救ってくれる一文を見出せるに違いない。

文=立花もも

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