文明が崩壊した終末世界を旅する2人の少女たちの日常『少女終末旅行』

マンガ

更新日:2017/11/27

(C)つくみず・新潮社/「少女終末旅行」製作委員会

 もし、世界が滅んで誰もいない世界に取り残されたら、自分はどう行動するだろう? アニメや漫画を見ていて、そう考えたことがある人も多いはず。たった1人あてもなく彷徨い続けるなんて、きっと生き地獄以外の何ものでもない。でも、もし2人だったら――一体何を話し、どんな生活を送るのだろうか。

『少女終末旅行』(つくみず/新潮社)は、そんな誰もいなくなった世界に取り残された少女2人が、ゆるーくあてもなく廃墟を旅する、という終末日常ファンタジー。webサイト『くらげバンチ』(新潮社)で連載中の本作品は、今秋のアニメ作品としても注目を浴びている。

 文明が崩壊した終末世界を、愛車の半装軌車ケッテンクラートで旅している「ちーちゃん」ことチトと、「ユー」ことユーリ。2人は、一体自分たちがどこにいるのかも、この世界がどうなっているのかも分からず、ただただ燃料や水、食料を求めながら廃墟と化した街を進んでいく。彼女たちの周りにあるのは、鉄骨ばかりの入り組んだ建物や工場跡、戦車、武器などがほとんどで、そこが戦争により滅びた世界であることを物語っている。

advertisement

 子ども2人でそんなところに放り出されているというシリアスな世界設定も十分インパクト大なのだが、この作品の魅力は、この世界観が本来持つ危機的状況をゆるく変えてしまう、強烈なキャラクターたちとの組み合わせにある。黒髪で小柄な少女チトは、頭がよく、手先も器用で冷静沈着。真面目な性格で一見すると至って普通の常識人だが、可愛い見た目に似合わず口が悪く毒舌で、特にユーリへのツッコミは容赦ないという一面もある。一方、金髪で長身のユーリは、のんびり屋で超がつく自由人。考えることや記憶は苦手だが、食べることが大好きで、銃の扱いや運動神経は抜群。基本的に頭は残念だが、独特のセンスを持っており、たまに核心を突くような発言をしたりもする。読めそうで読めない子だ。

 チトとユーリは外見も性格も真逆だが、親しい間柄特有の、相手を気にかけながらも気を遣わない、まったりかつ切れ味の鋭い空気に包まれている。例えば、暗闇の中でユーリが「暗いー」と騒げば、チトは彼女を一瞥すらせず「うるせえ」と一蹴する。それに「ごめん」と返し、また「いいよ」と返事をする。怒鳴るでもなく、特別嫌そうにするでもなく、それが単なる日常の一片であることを感じさせる、柔らかさすら感じる淡々としたテンション。朽ちた終末世界の中で、2人の会話はずっとこういった感じで続いていくのだ。このギャップが、この作品特有の、独特の世界観を作り上げている。アニメでは、声や動きがつくことでそれがより強く感じられ、クセになる。

 また、2人で彷徨っている中で、ごくたまに別の人間や生き物と出くわしたりもする。その人たちはたった1人で、この世界の中で生きる理由を見つけ、それにすがって生きている。ユーリの時折見せる警戒心や、バリエーションの乏しい食料、生きるための行動もそうだが、ところどころで、この世界がもう機能していないこと、それでも彼女たちはそこで生きていることをじんわり感じさせられる。

 アニメはまだまだ始まったばかりだが、これから少しずつ2人の置かれた状況が明かされていくことだろう。『少女終末旅行』は、キャラクターの可愛さもあり、シリアスな世界観のアニメが好きな人はもちろん、苦手な人でも安心して楽しめる絶妙なラインをいっている。原作とアニメでは若干違うところもあるので、ぜひともどちらも併せて味わってほしい。

文=月乃雫