太宰治、江戸川乱歩、芥川龍之介…こだわりのコーヒー屋さんが選んだ、すこぶる面白い随筆20編

文芸・カルチャー

2017/11/12

『コーヒーと随筆』(庄野雄治:編/ミルブックス)

 湯気をたてる香り高いコーヒーを味わう時間は、優れた随筆を嗜む時間と似ているような気がします。まったりと、時間をかけながら身体の芯まで染みてくるあの感覚。生きている上でそういう時間は必要だと言えましょう。太宰治から始まり、坂口安吾で終わる。お気に入りの曲だけを詰め込んだカセットテープのような、幼少時代の秘密の宝箱を思わせるような、そんな素敵な随筆集、『コーヒーと随筆』(庄野雄治:編/ミルブックス)をご紹介します。

 編者の庄野雄治さんは、徳島県で喫茶店を営むコーヒーロースター。文学作品にも造詣が深い方です。著書に『誰もいない場所を探している』(庄野雄治/ミルブックス)、『コーヒーの絵本』(庄野雄治:著、平澤まりこ:イラスト/ミルブックス)、編書に『コーヒーと小説』(庄野雄治:編/ミルブックス)があります。彼が2006年に徳島市内に開店した「アアルトコーヒー」と、2014年に同じく徳島市内に開店した「14g」は、美味しい豆を求めて県外からのお客さんも訪れるほど。庄野さんのこだわりのお店が人気を集める理由は、彼のブログを覗いてみると何となくわかる気がします。

毎日アルヴァーブレンドを何回も焙煎している。
小さな釜だから何度も何度も。
繰り返しを繰り返す。
どうして大きな焙煎機にしないの?
よく聞かれるんだけど、私はこの焙煎機ではじまりおわるんだって決めたんだ。
もうね、体の一部みたいなもの、彼じゃないとね。
庄野さんのブログ「今日も髪はクルックル」より)

■「新しいものは古くなるが、いいものは古くならない。それを証明する随筆集」

 人はずっと変わっていない。この本に載っている随筆を読めばよくわかる。百年前の人が読んでも、百年後の人が読んでも、同じところで笑って、同じところで泣くんじゃないのかな。
 一番新しいものが一番優れていると思われている。もちろん新しくて優れているものもあるけれど、そうでないものもある。新しいものは、やがて古くなる。ずっと新しいままではいられない。新しいものは古くなるが、いいものは古くならない。この本に掲載されている随筆はすべて半世紀以上前、中には百年以上前に書かれたものもある。これらの作品が、それを証明している。(本書3・4頁)

 庄野さんがまえがきでこう記している通り、本書には「いいもの」として脈々と受け継がれてきた文章が掲載されています。小説家、学者、彫刻家、詩人、落語家たちの胸に届く文章がコンピレーション・アルバムのように続いていく感覚がとても心地良いアンソロジーです。

 太宰治の「畜犬談」、江戸川乱歩の「恋と神様」、三遊亭園朝の「日本の小僧」、芥川龍之介の「ピアノ」、坂口安吾の「不良少年とキリスト」など、20の随筆を厳選。庄野さんが焙煎するこだわりのコーヒー豆と同様に、目まぐるしい時代の変化に流されず、いつまでも色褪せることのないものであるように感じます。何かと“新しさ”や“生産性”を求められがちな今日この頃ですが、「古くならない、いいもの」をじっくりと嗜む時間も大切にしたいものです。美味しいコーヒーを飲みながら、ページをめくってみてはいかがでしょうか。

文=K(稲)