猫はどうして「ペット」になったのか。なぜ「気まぐれ」なのか? 動物学者が語る猫研究の最前線!

ライトノベル

2017/11/14

『飼い猫のひみつ』(今泉忠明/イースト・プレス)

 ネコは気まぐれで、飼い主にも「なつかない」とよく言われる。ではなぜ、人間と一緒に暮らすようになったのだろうか。『飼い猫のひみつ』(今泉忠明/イースト・プレス)は、哺乳動物学者が著した「現時点で考えうるさまざまなネコの新説を紹介」したネコ学の最新知見である。

 ネコのルーツは340万年前に出現したヨーロッパヤマネコ。ネコに比べてやや大きい体格で、森林や草原、岩地などのうち、人間が近づきにくい環境に棲息していた。夜行性、単独行動、木登りが上手。雨に濡れるのが嫌いで、日光浴が好き。それぞれのナワバリを持ち、ネズミやウサギ、鳥類、爬虫類、昆虫などを食用とする。……現在のネコと限りなく近い習性を持っていた。

 そのヨーロッパヤマネコの亜種のひとつ「リビアヤマネコ」を飼いならしたものが、私たちの身近なネコの祖先である。

 では、いつ、どうしてリビアヤマネコが「家畜化」し、人間に飼われるイエネコとなったのか。その原因は、人類の歴史と深く関わっている。

 移動しながら狩猟採集生活を続けていた人類が、定住して農耕を始め「食糧を備蓄」するようになり、その食糧を狙うネズミが人の生活空間に入り込むようになった。そしてネズミを捕食するため、人間の集落に近づいてきたのがリビアヤマネコだ。人間の方も、ネズミを食べてくれる「お助け動物」として彼らを受け入れるようになった。

 しかし、リビアヤマネコが人間に飼われて、そのままイエネコに進化したわけではない。通常、家畜化した動物を野に放つと数代で元の野生に戻るという。ブタはイノシシを家畜にしたものだが、野生に戻すと子孫はイノシシに戻る(!)のだとか。

 つまり、ネコの祖先がリビアヤマネコなら、ネコが野生化するとヤマネコに戻るはずが、そうはならない。よく見かける「ノラネコ」になるだけだ。リビアヤマネコがイエネコになる過程には、もう一つ大きな「要因」があった。

 それが「西アジア個体群」。

 詳細は本書を読んでいただくとして、ざっくり説明すると、棲息地域によって異なる性質を持ったリビアヤマネコ(特有の個体群)がおり、それが「比較的小形で性格がおっとり」だった可能性がある。

 さらにその「特有の個体群」の中で、突然変異のひとつである「幼児化(ネオテニー)」が起こり、その上、何千年ものあいだ人為的な淘汰で「人間になつきやすい個体」が残った結果、現在のネコとほとんど変わらない生き物が誕生したのだとか。

 ネオテニーとは、「大人(=性的に成熟している状態)になっても、子ども(=性的に未成熟な幼生・幼体)の性質が残る現象」のこと。人間になつきやすいリビアヤマネコの中でも、さらに「子ネコ」に近い個体を選び、家畜化・繁殖させたと考えられる。

 現在、人間とともに暮らす愛らしいネコは、「地域差」や「突然変異」といった様々な要素が加わり、長い時間をかけて生まれたものだったのだ。

 このようにして家畜化したイエネコたち。だが、ネコはときおり野生の顔を見せることもある。ゴロゴロ喉を鳴らしてすり寄ってきたかと思えば、突然「フッーー!」と威嚇して噛みついてきた……なんて経験はないだろうか?

 ネコの「野生スイッチ」が突然入るのは、ヤマネコ時代に身についたものだそう。単独で狩りをするヤマネコは、成功の可能性が10%前後と低い。狩りに失敗することの方が多いのだ。

 その際、毛づくろい、あくび、背伸びなどの「転位行動」(その状況にふさわしくない行動)をして気分転換をする。その習性が残っているため、イエネコの気分はコロコロと変わりやすいのだとか。

 ネコに対する「なぜ」の「答え」が網羅されていると言っても過言ではない、面白くてタメになる本書は、ネコ好き必見の書である。

文=雨野裾