不思議な“埴輪”に導かれ、放課後の校舎でオカルト大冒険!? ひかわきょうこが12年ぶりに描き出す完全新作の学園ファンタジー

マンガ

公開日:2017/11/18

『魔法にかかった新学期』(ひかわきょうこ/白泉社)

 『彼方から』のひかわきょうこが12年ぶりに送りだす、ファン待望の完全新作『魔法にかかった新学期』(白泉社)。オカルティックな現象が頻発するいわゆる“よくない土地”に建つ高校に集結した、4人の高校生と1人の教師が遭遇する、人ならざるものが引き起こす怪奇を描いた作品だ。

のほほんとした心優しき少女・琴美。気さくな男前・隆介と、彼に想いを寄せる咲良。「とにかく明るいオカルト研究部」部長というやや変わり者の護。琴美の転校初日、高校3年の新学期に道でたまたま出会った4人は、偶然にも同じクラスで、席も前後左右と全員かたまる。さらに赴任したばかりの日本史教師・雅巳は、琴美の忘れられない幼なじみ「まーくん」だった。できすぎた出会いを果たした5人には、さらに共通点がふたつ。町のガチャガチャで小さな埴輪の人形をひいていたのだ。説明書のどこにも記載がないシークレットなレアキャラを、全員が。

この埴輪、どこに置いてきてもいつのまにか5人の胸元ポケットや鞄のなかにおさまっている。しかも目を離した隙にうねうね踊っていたりする。しかも埴輪の側面には、縄文時代に使われていたとも言われる古代ヲシテ文字。それぞれ「あ」「い」「う」「え」「お」と刻まれた埴輪とともに放課後に集結した5人は、生徒が引き起こしたコックリさん騒動をきっかけに、パラレルワールドのような誰もいない学校へと“飛ばされて”しまう。なんとも壮大で、わくわくする始まりだ。

advertisement

 胸躍るファンタジックバトルである一方、5人の関係にも要注目だ。過去のトラウマから、大切な人を不幸にするかもしれないおそれにとらわれている雅巳。雅巳の幸せを、別れて以来ずっと祈り続けてきた琴美。そんな彼女の穏やかな優しさに興味を惹かれている隆介と、近くにいすぎて想いを伝えられずにいる咲良。誰の心のなかにもドラマティックな感情の起伏は起きておらず、ただほのかに淡く、相手の“今”に想いを馳せる関係は、とてもあたたかく感じられる。いちばんドラマティックなのは、インテリ眼鏡と思いきや埴輪をかかげて「出でよ水!」とかやっちゃうノリノリな護なのだが、彼と埴輪の存在は緊迫する事態のなかで重要な癒しでもある。

 ひかわきょうこさんいわく、本作を描くことになったきっかけは、ある日ひとつのシーンが浮かんだこと。そのシーンに従い「あいうえお」をキーワードに資料調べをしたところ、古代日本の縄文時代に繋がっていったというのだから、その経緯こそが神秘的。文字にはそれぞれ「五輪」にも連なる意味があり、それに添った“力”を授けられた5人に、埴輪はいったい何をさせようというのか。幽霊というよりはもはや化け物に近い存在がうごめく夕暮れの校舎。不穏な気配が膨らんだまま終わりを迎えた第1巻。早くも傑作の予感が漂う学園ファンタジーなのである。

文=立花もも