いじめや仲間外れはなぜ起こる? 脳科学でみる「他者排除」とは?
2017/11/27

脳科学の研究は近年目覚ましい成果を挙げていて、研究結果の中にはこれまでの常識を覆すものが出てきている。これまでの常識とは、人間の行動や感情は脳によって決定されるというものだ。いわば脳が司令塔となって、体や心を動かしているという人間像である。
『あなたの脳のはなし 神経科学者が解き明かす意識の謎』(デイヴィッド・イーグルマン:著、大田直子:訳/早川書房)もこうした一般論に一石を投じる一冊。脳が、環境に適応しながら変化していくことと、他者とつながることが前提の作りであることが、述べられている。その例として、「いじめ・仲間外れ」が挙げられているのがショッキングだったので、以下にご紹介したい。いじめも仲間外れも、他者を自分の所属する集団から排除するもので、いけないことだとわかっているのに世の中からなくならない。その理由が、脳に元々備わっている性質にあるというのだ。もっともこの他者排除についての論が、本書全体の趣旨ではないことは強調しておく。
■仲間外れはどうして辛いのだろうか
では、他者から仲間外れにされた時、脳内では何が起こっているのだろうか。次のような実験がある。3人でボール投げをしていて、突然1人だけが仲間外れにされる。1人が無視され、ボール投げが他の2人で行われるのだ。スキャン画像で、外された人の脳の状態を見てみると、なんと痛みを感じる領域が活性化していたのだ。胸が痛むという言葉があるが比喩ではなく本当に、拒絶は痛みを覚えるということだ。つまり、人が集団を形成し、そこに所属することで安心感を得るのは、教育や環境によって後天的に学ぶものではなく、人が生まれながらに持っている機能だといえる。
■なぜ仲間外れが起こるのだろうか
集団を作ることは、人類の進化の過程で強みになってきた。集団の利益のために協力し合える能力のおかげで、個々が一対一で食糧を奪い合わなくても生きていける安定した社会が築けたからだ。しかし、集団欲求は負の面と隣り合わせだ。なぜなら、あらゆる集団には自分の所属する内集団と、その周囲の外集団があり、常に内と外とが緊張状態であるからだ。これは、内集団の結束を強めるために、外集団と自分たちの差別化を行うからで、集団ごとの闘争が起こりやすいということになる。時には、外集団を非人間とみなすことで、大虐殺でさえ良心の呵責なしに簡単に行えてしまう。アウシュビッツでナチスはユダヤ人を人間以下だとみなしていたし、旧ユーゴスラビアのセルビア人はイスラム教徒に対して同様だった。
現代の日本でも、正規の労働者が非正規労働者を平気で豚のように扱ったり、スクールカースト外への非人道的行いがなされたり、ありとあらゆるところに内集団と外集団は存在する。では、仲間外れや他集団への偏見はどうすることもできないのだろうか。今後の希望のヒントになりそうな、ある授業を紹介しよう。1968年、公民権運動の指導者キング牧師が暗殺された翌日のこと、アイオワ州のある教師がクラスの生徒に、他者へのラベリング、つまり偏見とはどういうことかを教えようとした時の記録だ。
■ルールは恣意的である
教師はまず「青い目の人は優れています。茶色の目の人は首輪をつけなければならず、水飲み器を使えません」と宣言。すると、数日たつうちに、青い目の生徒たちは茶色い目の生徒に対して支配者であるかのごとく意地悪に振る舞うようになった。無意識のうちに、自然に、だ。教師は次にこう宣言する。「茶色い目の人は首輪を外して青い目の人につけてください。青い目の人は遊具を使ってはいけません。なぜなら茶色い目の人が優れているからです」。当時の授業を受けたレックスとレイ(どちらも青い目の持ち主)はのちにこう述べている。「世界を取り上げられて、打ち砕かれるのです」「人格も自己もすっかり失った気がして、自分がまったくの能無しに思えた」。
この授業が素晴らしいのは、ルールというものは恣意的であり、真実は一定不変ではないことが身をもって学べたことだ。道徳の授業で先生が声を張り上げるよりも、よほど効果的で人の脳に則しているだろう。そもそも、こんな簡単な仕組みで気持ちや態度が変わってしまう脳とは、なんと不確かなものなのだろうか。私のことは私が決めていると思っていた前提が曖昧になってくると、私とは一体何なのだろうという哲学的な問いにぶつかっていく。生活の片隅ででも絶えず考えていきたい。
文=奥みんす
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