街頭でアレを出すことも厭わず…キワモノ扱いされる「無頼系独立候補」たちの実録記! 選考委員大絶賛で開高健ノンフィクション賞受賞!

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公開日:2017/11/25

『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(畠山理仁/集英社)

 10月の衆院選選挙、行った? 「いや、行ったよ! そんなの当たり前でしょ」って人もいるんでしょうが、何となく行ってない人も相当数いると思うわけですよ。「はあ? 何で行かないんだよ、世の中、このままでいいのかよ! 選挙は国民の権利だよ!」とか詰め寄られても、「まあ、行った方がいいかなと思うんだけど、何となく……」と気弱に語尾を濁す人たちの気持ちを忖度するに、「どっちにしたって結果見えてるしなあ」(←メジャー政党は自分が入れなくても議席獲得するし、マイナー政党は入れても無駄)という「自分の一票」の意味のなさ的な実感があるんじゃないかなあと思うわけです。何かこう、選挙という「政(まつりごと)」の外にいるような。投票権があるのに「政」からのアウェーな感じがつまんないから棄権しま~す、という結果を招いてるような。自分が参加してもしなくても場が盛り上がる飲み会に、完全に人数合わせで入れられてる時のドタキャンにも似たささやかな抵抗というか。

 これがアイドルの総選挙だったら、前のめりで金をつぎ込んで、自分が何とかせにゃあみたいな使命感に燃え立つ御仁も、本チャンの選挙は全くスルーなのは、「自分、いてもいなてくも良くね?」みたいな、やる前からの意欲喪失が大きい気がする。何でこんなに選挙ってのが、勝手に始まって勝手に終わる、拡声器で連呼される意味のな い名前を聞くだけの期間になってしまったのか。そんな風に人ごとみたいな感じで考えていたが、『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(畠山理仁/集英社)を読んで、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 どうせアウェーの員数外だからとフテて投票もしない有権者に対し、マック赤坂さん、ドクター中松さん、上杉隆さん、中川暢三さん、金子博さん、その他大勢の「泡沫候補」と呼ばれるチャレンジャーたちは、負けを承知で(いや、承知してない人もいるかも知れないけど)選挙の大舞台にドン・キホーテのように乗り込んでいくのである。たかが歩いて数分の近所の投票所に行くことすら面倒くせえと思ってしまう怠惰な有権者に対し、出馬に必要な供託金300万円を払い、政見放送はキワモノ扱いで全国的に笑い者となり、最後には、規定の得票数に達せず、300万円も没収されてしまう(ことが多い)にもかかわらず、不屈の精神で出馬し続ける彼らのスピリッツはどうだ。「どうせ自分の一票は無意味」だからと闘わずして棄権する人間に対し、政治の現場から強烈なNOを叩きつけてくるようには思えないだろうか。そんな彼らを「泡沫候補」ではなく、「無頼系独立候補」と名付け、20年間、選挙戦の様子を追い続けたルポルタージュが、この『黙殺』である。

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「無頼系独立候補」という愛にあふれた呼び名に相応しく、『黙殺』に登場する候補者たちは、自民党や公明党や社民党というメジャーレーベルに対して、自主製作で好きに作っているインディーズ盤的な存在ゆえに、彼らの経歴やプロフィールも、聞いてびっくりの生活保護受給中とか、公務執行妨害・殺人未遂で現行犯逮捕歴ありとかもいるのである。

 主張も、マック赤坂の「スマイル政治」を皮切りに、「土のある生活への回帰」「NHKをぶっ壊す」「自転車2ロックで盗難防止」……とか、まあ、メジャーレーベルではまず聞けない個性際立つノイズっぷりである。が、著者は、彼らを「どうせ宅録の自己満な音だから」とよく聞きもせずに切り捨てるのではなく、その一見振り切れた主張や借金を背負ってまでも選挙に出ようとする背景を、密着取材によって、しっかりと描き出している。その果てに見えてくるのは、「泡沫候補」を報道の対象から切り捨て、「主要候補」だけの戦いに仕立て上げているメディアの姿であり、現在の選挙報道の在り方の不公平性である。

 

 それに異議を唱えるために、スマイル党総裁として、選挙の名物化しつつあるマック赤坂は、街頭でチ×ポを出すことすら厭わず、千代田区議選に全裸ポスターで立候補した後藤輝樹は、都知事選の政見放送ではポ×チンを連発する。彼らの下半身は、全力でラウドにシャウトしている。こうでもしなけりゃ、おまえら、俺たちのことを黙殺じぇねえかよ! と。「泡沫候補」を黙殺しているのは、メディアだけではない。彼らをキワモノ扱いして、その政治への熱い思いを知ろうともしない棄権者たちもである。

 

 著者は言う。「もし世の中の人たちが普通に政治に関心を持っていれば、後藤が放送禁止用語を叫び続ける必要はなかっただろう」。そう、言わずもがなで付け足せば、マック赤坂がレオタードで踊る必要もな かった。

 勝ち目のな い戦いだから闘わないのではなく、消費者金融で金を借りまくっても、病身を押してでも、命がけで立候補している「無頼系独立候補」たちの姿にかぶせるように、
著者のお叱りが拡声器を通して聞こえてくる。政治はみんなが参加するものだと。その権利を自ら捨てることは愚かしいんじゃないか、と。あ、先月の衆院選、行ってねーや。すんません……ホント。

文=ガンガーラ田津美