『アメトーーク!』で光浦靖子が紹介! いじめに苦しむ中学生男子が、卓球で人類の存続を決める!? 前代未聞の“卓球”小説

エンタメ

2017/11/29

『ピンポン』(パク・ミンギュ:著、斎藤真理子:訳/白水社)

 今、本好きの間で密かにアツいのが、韓国人作家のパク・ミンギュだ。2003年のデビュー時から韓国の著名な文学賞を次々と受賞し、人気作家としての地位を確立。日本においては、2015年に短編集『カステラ』が第1回日本翻訳大賞を受賞し話題となった。

 『ピンポン』(白水社)は、パク・ミンギュが2006年に発表した長編で、『カステラ』と同じ斎藤真理子の翻訳で今年5月に刊行された。その奇想天外な発想と独特の文体がじわじわと話題になり、先日放送された『アメトーーク!』読書芸人企画で光浦靖子さんが紹介したことでも注目を集めている。

 主人公の中学生、〈僕〉はいじめを受けている。〈存在自体疑わしいぐらいのワル〉のチスとその手下から、いつも〈モアイ〉というあだ名の子と2人ワンセットで呼び出され、金をせびられたり、殴られたりする。“いじめ”なんて、ひらがな3文字で表現できるようなヤワなもんじゃない。チスが僕の頭をガンガン殴っている様子がまるで釘を打っているみたいだというので、僕のあだ名は〈釘〉になった。〈おい、釘〉と呼ばれて、骨にひびが入るほど頭を殴られる。

 本作の文章は全て〈僕〉の独白という形式をとり、会話文でも“「」”は使われない。〈僕〉の外の世界に存在したとされる言葉のみ、フォントの小さい文字を使うことで区別される。このフォントが実に効果的に使われている。〈僕〉と他人との間にどれほどの距離があるかが読者に突きつけられるのだ。

 独白文自体の妙なリアルさも、作品に吸引力を与える。たとえば、〈僕〉がチスにパシリを命じられて、急いで買い物に行こうとするシーン。〈タクシーに乗って、いやタクシーに乗る前にコインロッカーに買い物袋を入れて、いや、その前に両替えしなくちゃいけなくて、そしてタクシーの乗り場に並んだときにはもう三〇分も経っていた。〉―主人公の焦燥から、チスという存在をいかに恐れているかが伝わる。

 チスの暴力はエスカレートし、誰も助けてはくれない。やがて〈僕〉はチスだけじゃなく、この世界そのものに絶望していく。“自分と〈モアイ〉は、60億の人類から〈のけもの〉どころか、〈なきもの〉にされてるんだ”と。

 そんな絶望の日々を送る〈僕〉と〈モアイ〉の目の前に、ある日突然、卓球台と巨大なピンポン玉が出現する。

 この卓球台の出現を機に、絶望の物語は全く別の位相へと世界を変える。なんと、この卓球で〈僕〉と〈モアイ〉が〈人類代表〉と呼ばれる者たちと試合をし、勝ち残れば、人類が存続するか否かの未来を決定する権利を得られるというのだ。かくして、師匠の指導のもと、卓球の鍛練を開始する〈僕〉と〈モアイ〉。

 チスどころか、人類を相手に戦うことになった2人の男子中学生(しかも卓球で)。何その、朝起きたらいきなり「選ばれし勇者よ」みたいな展開は?と、一見エキセントリック過ぎるかもしれないが、前半が重苦しかった分、物語後半を飾る卓球のシーンは、様々なエンタメ要素も相まって、怒濤の一気読みは必至。

 いじめと卓球、暴力とピンポン。何の脈絡もなさそうな二つの風景を、エッジの利きまくった文章で見事に融合させた。斎藤真理子氏の翻訳がまためちゃくちゃかっこいいので、是非とも堪能してほしい。

文=林亮子