LiSAが紡いだ、10の「物語」――LiSAアニメタイアップ全楽曲レビュー(後編)

アニメ

公開日:2017/12/1

 2011年にデビューして以来、その歌で数々のアニメ作品に力を与えてきたLiSAにとって、最新シングルの“ASH”は10曲目のタイアップ楽曲となる。携わるすべての作品と真摯に向き合い、自らのメッセージも歌に託してきたLiSAの、アニメタイアップ全楽曲を振り返る。

7. Rally Go Round

TVアニメ『ニセコイ:』オープニングテーマ
2015年5月27日リリース
作詞:LiSA・古屋真、作曲:じん、編曲:akkin



 “crossing field”と並んで、ライブで歌われるごとに進化を遂げてきた8枚目のシングル(ライブで聴き慣れていると、音源に収められた「原曲との違い」に驚く)。ワンマンライブだけでなく、フィールドを問わずあらゆるステージで観客の参加を促し、客席を束ねてしまう掌握力を備えた1曲だ。もともと『ニセコイ』を愛読していたというLiSA自身も「作品の世界観の中で自分自身が今素直に歌えることはなんだろうっていう題材だったり、メッセージを見つけるのがとても上手になったのかな」と手応えを語っているが、『ニセコイ』で描かれる「素直になれなくてうまくいかない感じ」が歌詞の中でポップに表現されており、アニメのOP主題歌として理想的なアウトプットになっている。また、前述の「原曲との違い」は、LiSAが自身のステージをラフに楽しめるようになったことを象徴するエピソード。“Rally Go Round”は特に自由で、毎回表情が変わる。すべてを完璧に見せるのではなく、受け手に楽しみ方を委ね、ともにライブを作っていく。その軽やかさと信頼感は、直近のホールツアーで見せたアットホームであたたかいライブ空間の創出へとつながっている。

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8. Brave Freak Out

TVアニメ『クオリディア・コード』オープニングテーマ
2016年8月24日リリース
作詞:田淵智也、作曲・編曲:高橋浩一郎



 アニメ作品の空気を決定づける主題歌アーティストとしての責任を引き受け、それを100%まっとうしてみせた、10枚目のシングル。作品と楽曲の位置関係としては、2013年の“traumerei”に近いところがある。表題曲の特徴は、LiSAの歌を長く聴き続けているリスナーほど「普通」に感じる、つまりLiSAの楽曲としてすんなり入ってくる、言い換えればスタンダードな楽曲であることだと思う。激しいギターサウンドと洋楽的なメロディラインは疑いなくカッコいいのだが、一方である種の「余裕」を感じさせる点も印象的だ。“Rising Hope”や“シルシ”の例を出すまでもなく、LiSAのアニメタイアップ楽曲は作品に寄り添うことを大前提にしつつ、自身の想いを注ぎまくって全力で振り切るところが大きな魅力になってきたが、“Brave Freak Out”の場合、力は入ってるけど楽しむための余白は残っている、ということ。それは、積み重ねてきた聴き手との信頼関係がLiSAに自信を与え、パフォーマンスに広がりと深みが増したことを意味している。エモーショナルに心を揺さぶるメッセージも最高だけど、シンプルにカッコいいロックも楽しい。受け取る側も、LiSA自身も、新たな「LiSAの楽しみ方」を発見できる1曲だ。

9. Catch the Moment

『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』主題歌
2017年2月15日リリース
作詞:LiSA、作曲:田淵智也、編曲:江口亮



 LiSAはアニメタイアップのシングル、カップリング、アルバム収録曲、そのどれもに等しく愛情を注ぎ、ファンとともに育ててきた。だからどの楽曲にも強い想いが込められていて、それだけに単純な優劣は絶対につけられないのだが、あえて「今LiSA楽曲史における最高到達点」を選ぶとするなら、この“Catch the Moment”になるだろう。“crossing field”の発表から、約5年。キャリアの中で大きな位置を占めてきた『ソードアート・オンライン』とともに歩んだ時間、その間に重ねてきた数多くのステージ、聴き手と紡いできた深い絆。それらすべてに感謝を伝え、未来への決意を乗せて歌われた“Catch the Moment”は、劇場版『SAO』の物語とも完璧にシンクロしている。《一個幸せを数えるたびに 変わっていく未来に怯えてしまうけど》《集めた一秒を 永遠にして行けるかな》《あと何回キミと笑えるの?》など、素直に紡がれた歌詞も感動を誘う。また、驚くのは、LiSA自身から発せられるエモーションがぎっしり詰まっていて、どちらかというと「聴かせる」側であるはずの曲なのに、ライブにおいては観客が一緒に歌うアンセムに変貌を遂げていること。ライブ空間をともに作る喜びを確かめ合うように、会場全体がひとつになって歌われる《あと何回キミと笑えるの?》は何度観ても心揺さぶられる、圧巻の光景だ。

10. だってアタシのヒーロー。

TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第2期 エンディングテーマ
2017年8月2日リリース
作詞:LiSA・古屋真、作曲:渡辺翔、編曲:江口亮



 TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』は、LiSAにとって初めて全国放送される作品の主題歌に起用された、記念すべき1曲だ。「LiSAにとって初」という紹介をここまでに何度かしているが、それだけ活躍のフィールドを広げ、新たな局面に果敢にチャレンジし、そのすべてでしっかり答えを見つけて成長してきたことの証明でもある。“だってアタシのヒーロー。”は、音楽活動をスタートしたときからずっと「誰かの何かになりたい」と願ってきたLiSAがようやくたどり着いた、「みんなも自分も鼓舞する最高の応援歌」だ。いつだってオーディエンスにも音楽にも誠実に向き合ってきたLiSAだが、何もかもが順調だったわけではなく、思うようにいかないことも、悔しい想いを抱えることもあった。しかしそういった経験もすべて、《たくさんの失敗談を 愛せなかった自分を 抱きしめたら 最強だ》というフレーズで受け入れてみせる懐の深さが頼もしい。LiSAは言う。「わたし自身がひとりで見る夢はもう終わってるけど、みんなと見たい夢はどんどん出てくるから。一緒に作りたい夢が、いっぱいある」。この物語は、LiSAとともに進むパレードは、まだまだ続く。“だってアタシのヒーロー。”は、その未来が明るいことを教えてくれる。

11. ASH

TVアニメ『Fate/Apocrypha』2ndクール オープニングテーマ
2017年11月29日リリース
作詞:マオ(シド)、作曲:御恵明希(シド)、編曲:江口亮



 『ソードアート・オンライン』が「大事なときに必ずそばにいてくれる親友みたいな感じ」だとすれば、『Fate』には「持てる力を出し尽くして乗り越えるべき壁」というイメージがある。実際、LiSA自身も語っている通り、“oath sign”は自分の歌にするために長い時間を要している。『Fate』は、タイアップ楽曲を担当するアーティストの背負うものが、とにかく重くて大きいのだ。一方、LiSAは2014年に放送されたTVアニメ『Fate/stay night[Unlimited Blade Works]』の挿入歌“THIS ILLUSION”(未音源化)を担当しているのだが、この曲は2004年にPCゲームとして発売された『Fate/stay night』のオープニングテーマとして、そして2006年に放送されたアニメ第1作の主題歌(“disillusion”)として、シリーズのファンからは絶大な支持を獲得している楽曲だったりする。そんな人気曲を「LiSAならば」と任されている――つまり、『Fate』を歌うアーティストとして、作品サイドからの揺るぎない信頼を寄せられているわけで、“ASH”で6年ぶりに『Fate』と再びまみえたのは、運命であり必然である。どんな作品、どんな楽曲を背負ってもLiSAのメッセージはブレないし、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれる。アニソンシンガーとしての、比類なき実力を示した1曲だ。

文=清水大輔