日本人の繊細な感覚や美意識や伝統が結晶化した、それが「日本語」。この国特有の文化をもう一度見直そう
公開日:2017/11/30
「日本に生まれ育って、よかった」…ふとした瞬間にそう感じることがある。ふっくら炊き上がったツヤツヤのご飯を口にするとき、畳の上にゴロっと横になるとき、春の桜、秋の紅葉を堪能するとき…ああ、日本人だなあとしみじみと悦に入る。私たちひとりひとりの心の中には、自分だけの「日本」があるが、そんな私たちの国が世界に誇れるものは、実は身近に存在している。そのひとつが、普段使っている言葉、「日本語」だ。
『英語にできない日本の美しい言葉』(吉田裕子/青春出版社)は、大学受験塾やカルチャースクールなどで国語教師を務める著者が、単語の背景にある豊かな文化の積み重ねや、言葉の裏に潜む、複雑で繊細な感覚や概念、習慣などをふまえ、それらの結晶ともいえる美しい「日本語」について解説したものだ。日本独特の感性を表現した言葉は、そもそもその概念や発想を持たない英語圏の言葉にするのは難しい。仮に訳せたとしても表面的な英訳になってしまうおそれがある。元の言葉がはらむ感覚には、この国の歴史や感受性が詰まっていて、日本に生まれ育っていないと理解ができないかもしれないからだ。
■言葉は美意識のあらわれ
本書では6つの章に分け、挨拶、日本人特有の優美な雰囲気、切なる気持ちの表現、四季折々の言葉の彩り、文化に息づく想い、日本の食、と、異なる角度から、日本語でしか表現できない微妙なニュアンスを持つ166の言葉を紹介している。どの言葉も日本人らしい美意識が如実にあらわれているが、その背景にあるのは、日本人が昔から営んできた生活の中で、長年にわたって蓄積されてきたものだ。
■言葉は文化の蓄積
本書からいくつか紹介しよう。
たおやか ●しなしなと優美なものごし
(中略)主に女性のものごしや態度をいうのに使われ、しっとりと優しく、おだやかな雰囲気を表します。(中略)たおやかな女性を意味する「手弱女(たおやめ)」という言葉もあります。
憎からず ●はっきりと好きだと言わない日本人
この「憎からず」は、好き、愛しく思う、という意味の言葉です。(中略)憎くはない、ということで、好き、という意味になるわけですが、現代人の感覚からすると、少し回りくどい言い方ですね。
お粗末さまでした ●「ごちそうさまでした」と言われたら
(中略)「自分の提供したものは決して上等とは言えない」と謙遜するあいさつです。仮に自分としては自信のあるものを提供したとしても、得意気に振る舞うのではなく、「お粗末さまでした」と謙遜してみせるのか、上品な作法なのですね。
本書で紹介された言葉の中には、滅多に使う機会がなく時代にそぐわないものもある。しかし、その言葉を通して先人たちの心に触れることは、自国を理解し、愛おしみ、誇りに思う糸口になるのではないだろうか。グローバル化が進む今という時代だからこそ、より深く、正しく、自分の国を知ってほしい、そう願わずにはいられない。
文=銀 璃子
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