「ワリキリ」…彼女たちは売春をそう呼び、生活資金を稼ぐ。リアルな声を集めたその実態とは?

社会

2017/12/2

『彼女たちの売春(ワリキリ)』(荻上チキ/新潮社)

 男は傭兵、女は売春婦。「人類初の職業は?」の質問に対してしばしば耳にする答えだ。売春、性行為に対する意識は時代によって変遷を遂げてきた。古代メソポタミアでは、「神聖娼婦」の性行為は“聖なるもの”であり、神に身を捧げる、または、神に寄進した者への加護の意味があったとも伝えられる。日本では、「売春」と聞いて最初に思い浮かぶのは吉原などの遊郭だろう。貧しさ故に自分を売る、その原始的な行為は、現代でも街に転がっている。

『彼女たちの売春(ワリキリ)』(荻上チキ/新潮社)は、“出会い喫茶”を利用してお金を稼ぐ女性たちの生の声を集めて、詳細なデータとして記録した密着ルポルタージュだ。

■“出会い喫茶”とは?

 マジックミラーで仕切られた男女別々の部屋、男性部屋から女性部屋は丸見えだ。女性部屋には、お菓子やスナック類、コスメコーナー、ネイルなど、退屈しないような設備が整えられ、女性たちは思い思いに時を過ごす。そんな女性たちをミラー越しに物色し、いいなと思う子がいれば店員に申し出て、お目当ての子と5分ほどのミーティングタイム、そこで個別交渉し、双方が合意すれば外出が可能になる。行き先は、食事、カラオケ、ホテル…店外でどう過ごすかは本人たちの自由で店は介在しない。彼女たちのほとんどはお金が目的だが、その使い道は千差万別だ。遊ぶ金欲しさ、ホストに貢ぎたい、DVのパートナーから逃げるための資金、シングルマザーなので子育て費用…回復が報じられる日本経済だが、街にその実感はない。出会い喫茶で生活資金を稼ぐ女性たちはみな、貧しさから抜け出すために、もがき続けている。

■出会い喫茶を発案した男

 本書の中で興味深い箇所のひとつは、出会い喫茶のビジネスモデルをつくった発案者へのインタビューだ。発祥は、大阪の「ツーバ難波店」。売春、金銭問題、殺人などの温床になりがちなこのような店の考案者はさぞかし極悪人だろうと思いきや、その発想のルーツを辿ればちょっと意外な印象を受ける。

女の子も、誰も好きでこんな世界に来るわけじゃないですやん。やっぱりお金がないから来るわけでしょう。(中略)社会に順応でけへん子たちが働くところがあってもいいんちがうやろうか。(中略)女の子がなるべく犠牲にならんですむようなものが、必要とちゃうやろか。

 驚くべきことのひとつは、出会い喫茶の特徴のひとつでもある“マジックミラー”は当初は存在しておらず、後発業者の考案ということだ。

いろいろと文句はあるけど、いちばんはやっぱ、マジックミラー。(中略)女の子は見せ物でもなんでもないし、何をやってるんやろ、こいつらって、すごい腹も立ちました。(中略)女の子を見せ物にしてるんがいちばんムカついた。

「売春」は時代を映すひとつの「鏡」だ。すぐ隣に存在するかもしれないその「鏡」を、私たちは見て見ぬふりをすることはできない。

文=銀 璃子