数字が織りなす美しく不思議な世界

生活

2017/12/3

 昔、こんな足し算が話題になった。

 18782+18782=37564

「いやなやつ+いやなやつ=みなごろし」というわけだ。他にもこんなものがある。

8×1+1=9
8×12+2=98
8×123+3=987
8×1234+4=9876
8×12345+5=98765
8×123456+6=987654
8×1234567+7=9876543
8×12345678+8=98765432
8×123456789+9=987654321

 数字が織りなす不思議な世界は、時に予想を超えた奇跡を見せてくれる。

『美しすぎる「数」の世界』(清水健一/講談社)は、前述した数字の不思議の上級版だ。数論の研究を続ける大学講師の清水健一さんが、数の世界で起こっている美しい現象を、できるだけ分かりやすく解説している。

■三角形と「6」の不思議

 学校で習う数学が苦痛で仕方なかった人はたくさんいる。筆者もまったく同じだった。テストや受験のため数学を理解することに一生懸命で、数字を味わう瞬間が少なかった。だからこそ今一度、数字の美しい世界を見つめ直してみたい。

 たとえば三角形。どのような形をしている三角形でも、各辺の垂直二等分線が1点で交わるという性質がある。同様に、三角形の頂点と対辺の中点を結んだ3本の中線、頂点から対辺に下ろした3本の垂線も1点で交わる。さらに、この3つの交点は、下の図のように一直線に並び、その距離の比が1:2になっている。

 当時は見るのも嫌な三角形だったが、改めて見つめると数字の不思議がひょいと顔を出す。

 もう1つご紹介しよう。6という数字の持つ不思議だ。6は、1、2、3、6の4個の約数を持っている。このうち6を除いた1,2,3の3つの約数を「真の約数」と呼ぶ。6の真の約数を足してみると、

1+2+3=6

 になる。つまり真の約数の和がその数に等しい性質を持っているのだ。これを完全数と呼ぶ。この完全数、6の次に大きい数字は28、その次は496、その次は8128、その次は33550336、というように、なかなか貴重な存在なのだ。人間に個性があるように、数字にも個性がある。数字の個性が分かると、無機質な数に愛着がわいてくる。

■数字と金子みすゞ

 清水さんができるだけ分かりやすく解説している本書だが、ここから内容がどんどん難しくなる。数学に弱い筆者は、残念ながらこの後の内容をイマイチ理解できなかった。しかし、清水さんの語る「数字の美しさ」は理解できた。

 数字が作り出す一切ムダのない洗練された世界観。何一つ飾り気のない素朴さ。偶然か必然か、答えを求める者だけが手にする数字の起こした奇跡。フェルマーが遺した「フェルマーの最終定理」を証明するため、世界中の数学者が躍起になって机に向かったのも、数学者が数字の織りなす世界にとりつかれていたせいかもしれない。

 さらに清水さんは、数字と詩人・金子みすゞの詩にある共通点を見出している。それは、さきほどから登場する「不思議」だ。金子みすゞの詩は、日常で見落としがちな「発見」を純粋にすくい上げ、それを優しい言葉で表現する。誰もが見逃す日常の「不思議」を、彼女は誰よりも見つけ出せたからこそ、詩人として名を馳せたのではないか。

 数字も同じように、誰もが見落としがちな不思議を、膨大に広がる数の世界から純粋にすくい上げ、発見できた人だけが美しい瞬間に立ち会える。

この うらまちの
ぬかるみに、
あおい おそらが
ありました。

とおく、とおく、
うつくしく、
すんだ おそらが
ありました。

この うらまちの
ぬかるみは、
ふかい おそらで
ありました。

 数字の織りなす美しい景色にみせられた人々は、今日もぬかるみのふかいおそらで新しい発見を見つけるべく、不思議な世界に飛び込んでいる。

文=いのうえゆきひろ