東京オリンピック後に訪れる「成長なき社会」に私たちはどう立ち向かうべき?

ビジネス

2017/12/5

『東京五輪後の日本経済』(白井さゆり/小学館)

 2017年6月に日経平均株価は2万円を突破し、10月には2万2千円に到達。13営業日連続で株価が上昇する出来事もあり、バブル期を思わせる好調ぶりを見せている日本経済。しかし格差の広がり続ける一般庶民にはまったく実感できないのが正直なところ。2020年には東京五輪もひかえ、まだまだ日本経済は上昇を続けそうだが、通説では、五輪を終えた国の経済は一時的に急落すると言われている。今でさえ四苦八苦な私たちは、五輪というドーピングを乗り越えたあとにやってくる、さらに大きな壁にどう立ち向かえばいいのだろうか。

 『東京五輪後の日本経済』(白井さゆり/小学館)は、そんな私たちの疑問に答えてくれる1冊だ。著者の白井さゆり氏は国際通貨基金(IMF)エコノミストや日銀審議委員という経歴の持ち主。国内外の経済を見てきた白井氏が本書にて東京五輪後の日本経済について鋭く切り込んでいる。

■東京五輪後の不動産価格はどうなる?

 現在、不動産価格は東京都心部を中心に高騰している。この要因として挙げられるのが、2013年4月に開始された日本銀行による金融緩和。この金融緩和によって大量のマネーが市場に供給され、金利も下がったので、不動産価格が上昇したのだ。さらに東京五輪開催決定によって、建設業界に特需が訪れ、「東京五輪までは」という人々の期待が不動産価格を押し上げる結果となった。

 しかし東京五輪が終了すると、特需も人々の期待も消え去ってしまう。過去の歴史を振り返ると、オリンピック開催の景気浮揚効果は開催の1年前にピークを迎えるらしい。つまり2019年だ。それを見越した投資家が、2019年あたりに不動産売却の動きを本格化させ、不動産価格の下落基調が鮮明化する可能性もある。

 さらに日銀による金融緩和もいつまで続くか分からない。白井氏はこの金融緩和を「異次元緩和」と呼んでおり、日銀がリスクを背負ってまで、かつてない金融緩和を実施しているらしい。当然そんなことはいつまでもできないので、いつかは「正常化の流れ」が訪れる。

 今は絶好調の不動産価格だが、白井氏によると東京五輪後、不動産に明るい材料は見当たらないそうだ。多くの投資家たちも同様の見解らしい。不動産に手を出している人は東京五輪をめどに要注意する必要がある。

■東京五輪後の株価はどうなる?

 2017年11月末現在、絶好調の日経平均株価。その大きな要因の1つとなっているのが日銀によるETF(指数連動型上場投資信託)の買い入れだ。この説明については本書に譲るが、とにかく日銀はこのETFを異常なペースで買い続けてきた。白井氏によると、今後もそれが続くとは思えないようで、ETFから日銀が手を引いた場合、株式市場関係者でさえ、どの程度「負の影響」を与えるか分からないそうだ。つまり今後、株価が日本企業の本来の「実力ベース」に落ちていくことは十分に考えられる。

 2013年以降、日本企業は好調を維持しているが、白井氏によるとそれも「企業のコストカットの努力」と「円安」によるもの。東京五輪後は円高になる予想が立っており、さらに「日銀の退場」が重なると、日本企業は「コストカットの努力の限界」「円高」「日銀の退場」という「三重苦」と闘うことになる。東京五輪後、日本の株式市場が思わぬ下落の局面を迎えることを想定しておいた方がいいかもしれない。

■東京五輪後、日本経済は成長していける?

 こちらも暗い話題になってしまう。これからの日本はものすごいペースで人口減少が進んでいく。それに伴って生産年齢人口がどんどん減っていくので、人手不足はいよいよ深刻になって、経済成長はますます困難になる。

 また白井氏によると、日本経済は現在、需要と供給が釣り合った状態にある。ただし今後は供給よりも需要の方が先に減っていく可能性が高いそうだ。モノやサービスをたくさん作っても売れない状況が生じてきて、いよいよ企業淘汰の時代がやってくる。強い競争力や高い生産性を実現できる企業のみが生き残る「成長なき社会」が訪れる日も近いかもしれない。

■今から私たちができることは?

 暗い話題ばかりでげんなりする記事となってしまった。明るい材料の少ない日本で、これから私たちに何ができるだろうか。どんな行動をすべきだろうか。そのカギとなるのが「投資」だ。

 私たち日本人は極端にリスク回避的な性質を持っている。それは家計の金融資産に占める預金・現金の割合に表れており、日本は諸外国と比べ物にならないほどその割合が高い。株式などのリスク資産はとことん敬遠する風潮が日本にあるのだ。

 しかし日本は「成長なき社会」に突入する可能性にあり、その状況下で日銀の掲げる「2%の物価上昇」が実現してしまうと、私たちの賃金は上昇することなく出費だけが増え、生活はさらに苦しくなる。そのため私たちはリスクを取って資産運用をする「自助努力」が求められるようになる。

 白井氏が勧めているのは、外国通貨や外国通貨建て資産への投資だ。日本円は長期的なスパンで見た場合、その価値を下げていく可能性があるので、日本円の現金を保有しているだけではなく、外国通貨や外国通貨建て資産に積極的に投資すると良いらしい。富裕層などはすでに日本経済の動向を見極め、こうした動きを始めているようだ。

 東京五輪開催は非常に楽しみな未来だが、その楽しみを終えた後の未来も私たちは生きていく必要がある。その未来をどう迎えるかは、今の私たちの行動にかかっている。今のままでは生きているだけでリスクにさらされている状況だ。今日からできることは何か考えてみるべきだろう。

文=いのうえゆきひろ