寒き夜に、愉快な俳句を一句二句。『プレバト!!』でお馴染み夏井いつき先生の愉快な俳句本

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2017/12/7

『寝る前に読む一句、二句』(夏井いつき・ローゼン千草/ワニブックス)

 突然ですが、皆さんは日常的に俳句に触れていますか? 俳句と言えば、中学や高校の国語の授業で習った“昔のモノ”という認識を持つ人も少なくないようです。しかし、五―七―五の歌に「俳句」という名前をつけて文化として確立させたのは明治時代の正岡子規で、それ以前は庶民の楽しむ低劣な和歌だと見なされていたようです。そんな俳句は決して現在も廃れておらず、それどころか俳句は今もなお進化し続けています。日本の俳句は国内のみならず海外からも注目を集めるほど。十七音という至ってシンプルな形式の中に、想像もつかないほどの奥行きと味わい深さ、そして変わりゆく季節に対するよろこびが詰め込まれた俳句の世界は実に魅力的です。

 現代の日本の俳壇を牽引する俳人、夏井いつきさんをご存じの方は多いのではないでしょうか。TBS系『プレバト!!』の俳句コーナーでは辛口の先生として人気を集めています。そんな夏井先生が名句をセレクトし、初心者でも楽しめるように解説した俳句本、『寝る前に読む一句、二句』(夏井いつき・ローゼン千草/ワニブックス)を読むと、俳句の世界にずぶりとハマってしまうこと間違いなしです。

 本書には夏井さんが厳選した30の俳句が収められており、句の横には何とも可愛らしい挿絵と、俳句とその作者、季語についてわかりやすい解説が添えられています。その後には対談形式の俳句観察があり、これがまた非常に面白くて勉強になるのです。その対談のお相手は、夏井先生の妹で同じく俳人のローゼン千草さん。姉妹だからこそ本音で言い合える「人生×俳句」トークのテーマは「棺桶リスト」「熟年離婚」「女の老い方」など多岐にわたり、粋とユーモアがたっぷり。鋭い観察眼を持った姉妹の人生話はとても示唆に富んでいて、いつもとは少し違ったものの見方を優しく提示してくれます。

 本書で私が特に気に入った句と解説・俳句観察を一つ紹介させていただきます。

短夜や乳ぜり啼く児を須可捨焉乎(みじかよやちぜりなくこをすてっちまおか)
作:竹下しづの女/季語:短夜(夏)

(解説)お乳が足りないのか、蒸し暑さのせいか、抱いても、あやしても、団扇で煽いでも、赤ちゃんが泣き止んでくれない。ようやく寝かしつけたと思ったら、隣でぐうぐう寝ている夫のイビキでまた起きる。また乳をやり、また抱いて、また庭に出て、また涼む。これじゃ一晩中寝る事もできない。切ないったらない。いっそこの庭に捨てちまおうか、こんなに泣き止まぬ子は。

夏井:この漢字の並べっぷりがアッパレやね。
 この句ができて、漢字の部分の「すてっちまおうか」をどういう表記にしようかと考えている段階で、すでに育児の悩みではなくなってる。俳句作家たる悩みに変容してる。

ローゼン:これを初めて読んだ時ほっとした。捨てちまおうかって、ああこんな鬼ママ、私だけじゃなかった(笑)。

夏井:当時、家庭に閉じこもっていた女性たちの間で「台所俳句」の人気が出た理由は、これやったんやろな。

 家事育児だけをしていた女性たちのストレスは溜まる一方だけど、辛い家事や我慢の育児が、どんどん句材になっていく快感を知れば、イライラも発散できる。良い句ができたら得した気分にもなる。

 夏井先生とローゼン千草さんのしっかりとした解説や親しみやすい俳句観察のおかげもあって、ページをめくるたびに自分にとって俳句というものがどんどん身近になっていくような気がしました。芸術や文化に対して、「素人がやるのは恥ずかしい」という垣根のような感覚が取り払われていくことは、人生の可能性の幅を広げてくれることだとも思います。

 一年で最も夜が長くなるこの季節。寝る前に一句、二句。十七音の中に広がる宇宙を漂いながら幸せな眠りについてみてはいかがでしょうか。

文=K(稲)