「子離れ」を決意できますか…? 話題となった西原理恵子の“卒母宣言”。全国のお母さんたちの笑って泣ける体験談

出産・子育て

2017/12/11

『卒母のススメ』(西原 理恵子、卒母ーズ/毎日新聞出版)

 西原理恵子が毎日新聞で足かけ16年連載を続けた漫画『毎日かあさん』が長く人気を得ているのは、現役で働きながら子育てをしている人の共感はもちろん、すでに子育てを終えた世代は当時を懐かしく偲び、まだ結婚していない若い世代にとっても自分の親との関わりを想い起こさせるからだろうか。

 私の家の場合、中学生になった愚息に奥さんが毎日のように抱きついては、「母さん邪魔!!」と逃げられている。子供の自主性に任せると云えば聞こえは良いものの、朝起こすのに苦労したことが無く、部活の早朝練習があれば一人で朝食を用意し、弁当が必要な日には自分で作り登校している愚息は、しかし困ったことに忘れ物が絶えない。どうにも、あちらを立てればこちらが立たずで、子育てのバランスは難しいものがある。なにしろ、よその家のやり方を知ったとしても自分の家庭にすんなり移植することができないうえ、アレンジしてみると予想とは違う結果になり、しかもやり直しはきかないときている。

 連載を終了した西原氏が「子育て終わり」「あとは好きにさせてもらう」と“卒母宣言”をしたところ、またたく間に話題となり、毎日新聞で「卒母」についての感想や体験談を募集した中から傑作実話101編を収録したのが、『卒母のススメ』(西原 理恵子、卒母ーズ/毎日新聞出版)である。

 投稿集の愉しみはなんといっても、あるあるネタだろう。投稿者の一人は親から本を読んでもらったことが無かったからと読み聞かせをしてあげたのに今ではケータイ以外の活字を読まず、家での食事の献立が給食と重ならないように工夫したのに今ではカップ麺大好きになってしまった息子の話など、可笑しみとともに愛情がにじみ出ている。この投稿者は、「努力が全く実を結ばない世界があるってこと、教えてくれてありがとう」と結んでいた。

 タイトルにこそ「卒母のススメ」とあるが、本書はそれ一辺倒ではない。母親から言葉の暴力を受けたり、本人の知らぬうちに奨学金を使われていたりしたという投稿者は「無理に卒業する必要ないんじゃないかな?」としている。投稿者は、自分が親からされたことはせず、親がしてくれなかったことをしようと努め、子供を抱きしめる時には自分のインナーチャイルド、いわゆる「内なる子供」も一緒に抱きしめ、それでもなお自分の穴はふさがらないそうだ。それゆえか、親元を離れて独り立ちした子供が「いつ帰ってきても優しく迎えてやる母親でいてやりたい」と想いを綴っていた。

 そして中には、卒母したくてもできない人々もいる。小学生の娘が2人いる投稿者によると、娘たちはオッパイが大好きで風呂上がりに食らいついてくるうえ、ご主人(投稿者は「長男」と呼んでいる)も通りすがりや背後からもんできて、卒母どころか卒乳さえできていないのだとか。この投稿と対比するのは憚られるものの、親を早くに亡くした人や、子供に先立たれた人もまた卒母するのは難しいようだし、亡くなった妻に代わって母親役をしている父親が云うように「みんな頑張っている」のは確かだ。娘に障害があり介助をしている投稿者は、娘より先には死ねないという想いから「娘と1日違いで旅立つ」ことを、理想の卒母と述べている。

 子育てはもちろん人生も、やり直しや代替がきかないからこそ、自分を重ね合わせるだけでなく他人との違いを知るのも、こうした投稿集における醍醐味だろう。毎日新聞では西原氏の新作『りえさん手帖』の連載が始まり、そちらの主人公「りえさん」はド派手な“オバサン”ルックなのだが、どうしてそういうキャラクターになったのか、本書の巻末にある描き下ろし『卒母ものがたり』で触れている。その内容とも共通し、表紙の折り返しには「よその幸せがうれしくて泣ける」という言葉が添えられていたけれど、そんなふうに思える日が私と奥さんにも来るのだろうか。

文=清水銀嶺