ネットが舞台の小説のクラシコ

小説・エッセイ

公開日:2012/2/17

ライン

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:eBookJapan
著者名:乃南アサ 価格:540円

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乃南アサさん。好きな作家です。さくっと読めるのに人物像がしっかりしていて、登場人物がきちんと現代に生きている感じが。懐かしくて手にとってみた1冊。

本書を読みつつ、ネットがこれほどに普及する前、80年代の半ばごろからちらほらと「パソコン通信」というキーワードを聞いていたのを思い出しました。あの頃の「パソ通」はオタクそのものな感じで、「話したいことがあれば会えばいいのに、なんでわざわざ、ニックネーム使って文字でやりとりするの?」と思っていたものです。文字の世界、バーチャルな世界にはまって生きてしまうほどの魅力、そんなものは想像だにしなかった時代でした。

この作品の土台になった『パソコン通信殺人事件』が書かれたのが90年。彼女も先見の明がある作家の1人。時代の空気に敏感だからこそ、ヒット作品を生み出してゆくのでしょう。97年に大幅加筆訂正を加え『ライン』として発表されたのは、ちょうど一般に「インターネット」が浸透してきた頃という背景が。当時、ネットで急速にみんな「つながっている」はずなのに、それと呼応するように都会の孤独、家族の中の孤独、仲間といても感じる孤独、というようなものが社会問題としても取り沙汰されることが多かったのでは。見識者たちが「ネットは人とのつながりを変えてしまう」と警鐘を鳴らしていた時期。そんな中で、この主人公のような人物がどっと増殖していたのではないでしょうか。

主人公の薫は、夜にKAHORUという違う名前をもつ3浪生。現実の生活ではどうみても「負け組」に近い彼は、男たちが群ががるチャットの世界で若い女の子として、彼らのアイドルとして自由奔放に振舞い、はかない自由を謳歌しています。ミイラ取りがミイラになる要領で薫がネットにはまってゆくさまが、とても丁寧に描かれてゆきます。

医学部へ行けとプレッシャーをかける母親、すでに大学生となり、なんとなく薫の3浪に気を遣う友人たち。東京の普通の家庭と普通の人間関係のなかで、何かが微妙に狂ってゆく。そして新宿駅で通り魔事件が始まる…。最後までぐいぐいと読ませる迫力はいつもの乃南流。犯人明かしが最後の最後のほうなのも、うれしい作品です。


パソコン通信の発展の頃から、そういえば、全人類の睡眠時間は激減してきているのかも?

片桐君みたいなタイプが、ネットで熱をあげやすいんです。そんな性格がぴたりと描けていて見事

殺人事件発生。糾弾する側のカッコが《》なのもなんだか怖い

さて誰が追って誰が追われているのでしょう? (C)Asa Nonami 1997